唐桃の読んだもの。

読んできた本や漫画を、徒然に紹介していきます。

アメリカを横断する本を読みました。~山本あり「アメリカ横断我ら夫婦ふたり旅 14days」、鈴木光司「地球を走る」、村上春樹「辺境・近況」

 

山本あり「アメリカ横断我ら夫婦ふたり旅 14days」
が、面白かったです。

車と寝台列車を使って、夫婦でアメリカ横断。

ロストバゲージからはじまり、ロサンゼルスでの野球観戦、ラスベガス、

グランドキャニオンでの日の出、水がいっぱいになるまで17年かかったという

グレンキャニオンダムに、東京ディズニーリゾートの112倍の大きさがあるという

ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート…。

寝台列車のサンセットリミテッド号は3211キロを2日間かけて走るそうです。

さすがのスケール。

何を食べたか、どこに行ったか、その場所ならではのものを詳しく描いていて

私もいつか、と思いました。


それとは別口で、たまたま読んだ

鈴木光司の「いかだに乗って」(「海の怪」収録)にも、

アメリカ横断をしたときの思い出が書かれていたので興味がわき、

「地球を走る」も読んでみました。

もともとバイク乗りである筆者は、大学生のときに友人とアメリカに行きました。

本当はバイクで横断してみたかったけど、当時はスポンサーがつかずに

レンタカーとバスでの移動になってしまった。

それから16年後、作家デビューをした後で出版社の人と話をしていたら、

やりましょうかとなったそうです。

本人がバイクに乗って、後ろから編集者の人が車で追いかけていくかたち。

荷物も車に置いているのかな?

 

夜に道路を走っていたらまっくらな山肌に街のあかりがキラキラと見える。

割と大きいようだけど、このあたりにそんな街はなかったのに。

山の影に入って一瞬視界がとだえ、もう一度開けた時にはあかりは消えていた…

というあたりは、化かされたような雰囲気がありました。

キツネかタヌキの役割は、アメリカだとコヨーテかしら。

 

アメリカ横断といえば、
村上春樹の「辺境・近況」でも書かれていました。

メキシコ、瀬戸内海の無人島、ノモンハン、香川のうどん屋などの紀行エッセイで、「いくぶん非日常的な日常」としての旅行が書かれています。

 

実際にハンドルを握って大陸横断してみると、アメリカってほんとうにでかい国だなあとわかる。地域ごとに文化や服装ががらがらと音を立てて変わっていく。それから感心したのはガソリンが安いことと、有料道路がほとんどないこと。食事と宿泊施設が救いがたく単調だったこと。もう一回横断してみたいかと訊かれたら、「うーん」と首をひねるしかないような気がする。

 

特別な目的は何もなく、交代で運転しながら同じような景色を見て、

同じようなものを食べ、同じようなモーテルに泊まる日々は、観光もするけど

基本的には退屈だ、というのは文章中にも書かれていたのだけど、読んでる側としては

退屈ではなく、なんというか、深みのある旅路、とでもいうものを感じました。

 

と、アメリカ横断について書かれたものを読んでみたのですが、同じことをしても

道のりは違うし、何を書いて何を書かないかも違う。(ユタ州のあたりでは表立って

お酒が飲めないから、確保しないと…というエピソードは、3冊とも書いてありました)

ひとつの本では疑問だったところがほかの本で補完されることもあり、

同じテーマの本を続けて読むのもおもしろいものだと思いました。

うさぎが出てくる本を読みました。~岡田淳「学校ウサギをつかまえろ」、キューライス「ドン・ウッサそらをとぶ」、高原英理「うさと私」

2022年もあと4時間を切り、来年はうさぎ年です。

なので、今日はうさぎの出てくる話を紹介します。

 

岡田淳「学校ウサギをつかまえろ」

 

転校生美佐子がうっかり逃してしまった学校のウサギ。
夕暮れの工事現場で繰り広げられる友情物語。

 

80年代に書かれた本で、舞台にもなっています。

学校図書館にあって、小学生の時に読みました。

6人の小学4年生が、学校から工事現場に逃げ出したウサギをつかまえるために

奮闘する、夕方から夜までの話なのですが、すごく濃密で、

日がだんだん暮れていく心細さや、地面に手を付けるときの感覚や、

小学生の時に、学校の中庭でうさぎを飼っていたことも思い出されました。

中から穴を掘って、校庭の草を食べてるのを時々見かけましたが、

今でもあの学校では飼っているのかなあ。

 

キューライス「ドン・ウッサそらをとぶ」

 

ウサギの大親分ドン・ウッサと、けなげな子分たちの話です。

「カモメさんのように自由に大空を飛んでみたい…」と、

ドンの一言ではりきる子分たち。

割とひどい目に合うドン・ウッサの背中には哀愁が漂っています。

ehons.jp

qrais.blog.jp

 

 

うさと私

うさと私

Amazon

高原英理「うさと私」

 

「地味な兎ですが、ずっとつきあってください」

誕生日にもらったポストカードにはこう書かれていた。
私は決意した。
半月後、兎は私の右側に座っている。

「うさと私」の懐の深い日々の会話が、沈みがちな心にやさしい風を送ってくれる。まるで絵本のように大人の心に響く「うさと私」の物語。

 

時に恋人のようで、時に家族のようで、時に親子のようで。

穏やかで温かく、傷つけるものが何もない空間が広がります。

miminokioku.air-nifty.com

 

来年も、ブログの記事を少しづつ書いていこうと思います。

これまで読んでこなかった作者や、ジャンルにも手をのばしてみたい。

それでは、よいお年を!

ヨシタケシンスケ展に行ってきました。

 

yoshitake-ten.exhibit.jp

ひろしま美術館で開催中の、

「ヨシタケシンスケ展かもしれない」行ってきました!

 

あちこちに書き下ろしのコメントがあったり、ひっそり私物が並んでいたり、

最後の最後まで楽しめる、素敵な展覧会でした。

もう一度行きたいくらいです。

www.moe-web.jp

壁一面に並んだスケッチが圧巻!

一つ一つの絵が、ほんとに指で隠せるくらい小さくて。

壁一面にばーっと並んだメモを行ったり来たりしながら見ていきました。

 

スケッチ自体は「デリカシー体操」にも収録されていたのだけど

(当時は会社になじめなくて、気配を感じたらすぐに隠せるような小さい小さいサイズで

ラクガキを描いていた、というのもここに書かれていました)、

見たことのないものがたくさんあって、嬉しさがこみあがってきました。

字も小っちゃいの・・・

 

そもそも私はメンタルがとても弱く、

ちょっとしたことですぐに心が折れるのです。

 

だから「世の中は見ようによってはおもしろいよ」

「捨てたもんじゃないよ」と、日々、自分をはげまし続ける必要があり、

 

これらのスケッチは、いわば世の中の

「どうでもいいこと」をどうにかして「おもしろがろうとした」

記録でもあるわけです。          (「デリカシー体操」前書きより)

というあたり、あとに描かれる絵本とのつながりが見えてくるようでした。

 

大学で立体の制作をしていた、というのは他の本でも読んだのですが、

実際に「カブリモノシリーズ」として見てみると

うわ~! と声が出てしまいました。

実物が目の前にあるって、いいですね!

当時の紹介映像も流れていて、最初から最後まで見ちゃいました。

www.art-yuran.jp

 

Wikipediaではパンタグラフの一員だった、と書かれていたのだけど、

え、「パラレルワールド御土産帳」パンタグラフ?!

と検索したところ、ちゃんと記事に名前がありました。

weekly.ascii.jp

私は絵本作家のヨシタケシンスケを知る前に、吉竹伸介の作ったものを知っていた

んだ…と、なんだか感慨深かったです。

karamomo0511.hatenablog.com

雄弁に食事を語る本~ 杏耶「たま卵ごはん~おひとりぶん簡単レシピ~」、西川魯介「まかない君」、よしながふみ「きのう何食べた?」

 

杏耶「たま卵ごはん~おひとりぶん簡単レシピ~」 を読みました。

表紙からも伝わるような、おいしさが満載!

卵好きの作者が、簡単にできるたまごレシピをイラストで紹介していて、

パイ生地の代わりに食パンを使ったキッシュが、簡単でおいしかったです。

なので、今日は家でごはんを作る本を紹介します。

 

まかない君 1 (ジェッツコミックス)

まかない君 1 (ジェッツコミックス)

 

 西川魯介「まかない君」

年上の従姉3人の住む家に、大学進学を期に居候することになった浩平。

料理係を任せられ、日々の食事と日常が描かれていて、作る様子が雄弁です。

たとえば第1話では、これからごはんはよろしくね、そろそろ晩ご飯だから

何か作ってよ、それならスパゲティを作ろうかということになり・・・

 

えーと まず鍋を火にかけて 塩もブチ込んで 

湯が沸く間に菜の花を半分に切る

ベーコンはてきとーに細く切ってと

にんにく一かけはみじん切りにする

芽は取らないと毒があるとか 

焦げて苦味が出るとかって言うけど気にしない

毒なんか無いしゆっくり炒めれば焦げないし

だいいち面倒だしもったいない(「まかない君」1巻 p9)

 

 小さいころから知っている身内の親しさがあり、大人になっている男女の距離感もあり、

日常のなかに照れやからかいが入ってきて、ちょっとラブコメ風味。

主人公が宮城出身なので、ときどき白石温麺とか芋煮とか、

ご当地料理が出てくるところも好きです。

 

そして雄弁な食事、といえばよしながふみ

「愛がなくても食っていけます」でも、「きのう何食べた?」でも、

何がどういう風においしいのか、買ったものを何を作って回していくのか、

どうやって作るのか、丁寧に描かれています。

honcierge.jp

matome.miil.me

「何食べ」も、10月にはもう20巻。

1巻を読み返してみると、主人公たちの周りの変化も合わせて楽しめます。

当たり前だけど、生き物は死ぬまで何か食べるものなんだなあ…と思いました。

「宝石 地球がうみだすキセキ」を見てきました。~諏訪恭一「価値のわかる宝石図鑑」、吉本ばなな「SLY」

名古屋市科学館で開催中の

特別展「宝石 地球がうみだすキセキ」を見てきました!

 

hoseki-ten.jp

各地の博物館やコレクションから集められた展示物は、

鉱石としての面とジュエリーとしての面の両方が楽しめます。

原石がどのような過程で生まれるか、

お店で売られるようなジュエリーにするまで、どのようなことが行われているか。

照明を落とした部屋でのアルビオン アート・コレクションは、繊細で豪華で、

「珠玉の芸術品」という言葉がふさわしく思えました。

 

鉱物と生き物を組み合わせたコラボレーションのイラストも素敵でした~

note.com

それにちなんで、今日はジュエリーについて書かれた本を紹介します。

諏訪恭一「価値のわかる宝石図鑑」

宝石とは大自然が生み出し、美しく永く身に着けられて価値を持ち続けるもの。本書では、主要な宝石について、美しいジュエリーの写真とともにその価値や品質、選び方などを丁寧に紹介しました。品質・市場価値の目安を3段階で示しましたので、宝石を選ぶときの基準にすることができます。

作者は、SUWA(諏訪貿易株式会社)の会長にして

「宝石 地球がうみだすキセキ」の監修者の一人でもあります。

ダイヤモンド、ルビー、トパーズ、エメラルド・・・硬度順に並べられた

宝石と鉱物種がフルカラーで紹介されていて、

あーすごい・・・うわあ、もう・・・」と、語彙力を喪いました。

いかに有効に原石の形を生かしつつ、きれいなカットをするか。

それをどのように、身に着けるものとしてデザインするかということもわかり、

綺麗で楽しい本でした。

巻末には、5万円から1千万円をこえるようなジュエリーも

たくさん紹介されています。どういうときにつけるんだろう・・・

www.jewelryjournal.jp

 

ジュエリーとは違うけど、山田英春「不思議で美しい石の図鑑」も好きです。

名前で検索したら、エシカルジュエリーの会社HASUNAのCEOとの対話がありました。

karamomo0511.hatenablog.com

 

insights.amana.jp

そして宝石でと言えば、こちらを最近読みました。

吉本ばなな「SLY」

 

語り手清瀬と、昔の恋人の喬。喬と恋人だった日出男。

3人が行く、「美しい景色につられてさまよった」10日間ほどのエジプト旅行の物語。

1995年の、作者のエジプト旅行記も収録されています。

むしろエジプト旅行があって、小説の着想を得たそうです。

 

主人公がジュエリーのデザインをしているので、

石は、自分がどうカットされてどうデザインされるべきか知っている。それを石と一緒に考えるのが私の仕事だ。

や、

ジュエリーは表現のためと同時に、やはり、その人を護る仕事をしているに違いないのだ。

というところも印象に残りました。

愛されるぬいぐるみの本を読みました。~マーク・ニクソン「愛されすぎたぬいぐるみたち」、田村ふみ湖「古いぬいぐるみのはなし」

マーク・ニクソン「愛されすぎたぬいぐるみたち」

がおもしろかったので、今日はぬいぐるみについて書いている本を紹介します。

子どものころから何十年もいっしょに過ごすうちに、

ちょっと…いや、かなりぼろぼろになってしまったぬいぐるみたち。

U2のボノやミスター・ビーンのクマをはじめとした、愛の重みを一身に受けた

ぬいぐるみたちの姿を、笑いや涙の思い出が詰まった文章とともに紹介します。

 

あちこちすりきれて、やぶけて、ぼろぼろになったぬいぐるみには

縫いなおした跡があるものもけっこうあって、

持ち主の思い出と一緒に、流れてきた時間や、かけてきた愛情を感じます。

著者のHP(英語)から、他の写真も見られます。

 

田村ふみ湖「古いぬいぐるみのはなし」

ぬいぐるみ好きだった少女がぬいぐるみ好きな大人になり、

大切なぬいぐるみを持つ同志をみつけ、写真と一緒に思いを聞いたものです。

作者は北欧雑貨店「マルカ」を経営しているので、

そのつながりでか、この本に出てくる人も個人でお店を開いている人が多いようでした。

蚤の市で見つけた、雑貨の買い付けで出会った、などのはじまりや、

ぬいぐるみのプロフィールも楽しいです。

作者のうさぎ山ごんぞうさんのように、ぬいぐるみにつける名前は、

人やペットとはまた違う良さがありますね。

 

そしてぬいぐるみといえば、新井素子

家には4000匹以上のぬいぐるみを置く、専用の棚があるとか。

fujinkoron.jp

mainichi.jp

「わにわに物語」などのエッセイでは出会いや生活を、

「くますけと一緒に」ではホラーを書いており、

ぬいぐるみが好きな人はたくさんいても、

こんなに深いつきあいかたをしている人は稀だと感じ入ります。

「北村薫と有栖川有栖の名作ミステリーきっかけ大図鑑」からつながる本を読みました。~いずみ朔庵「ウチの江戸美人」、杉浦日向子「風流江戸雀」

 

「北村薫と有栖川有栖の名作ミステリーきっかけ大図鑑」を読んでいました。

時代を超えて楽しめるミステリーに登場するヒーロー、ヒロインと

活躍する物語をイラストで紹介している本です。

小学生の頃に読んだ記憶がある「おーい でてこーい」(星新一)や、

比較的最近読んだ「星を継ぐもの」(ホーガン)も載っていて、

それらが印象に残っていることを思うと、いいものは時代を超えるのだと思いました。

 

それぞれの作品によって、違う人がイラストを描いているのですが、

「九マイルは遠すぎる」のイラストがいずみ朔庵で、

この人「ウチの江戸美人」の作者じゃない、と驚きました。

江戸風俗×現代美容!? 江戸時代からやってきた「江戸美人ちゃん」と独身会社員の「現代女子ちゃん」が ルームシェアする奇妙なストーリー。同世代のごく普通の女性たちが、それぞれの価値観や好みを否定せず、時に共有しながらおしゃれや趣味を楽しむ様子を描く。「時代」変われば「イケてる」も変わる。二人の日常から見えてくる「ほんわか江戸のおしゃれ入門」!
書籍オリジナルの四コマ漫画では、二人の暮らしぶりまで紹介。

江戸と現代、違うところもあるけれど、

通じるものもたくさんあるのだな、と楽しく読みました。

 

www.cosmetic-culture.po-holdings.co.jp

作者は甲賀流忍者検定に合格したらしいです。

www.tokaiedu.co.jp

江戸時代の文化と言えば、

わたしの知ってるところは半分以上杉浦日向子の本や漫画からきています。

面白いとおもうきっかけが生まれるのはいいものですね。

杉浦日向子「風流江戸雀」

どこか懐かしい江戸の情緒を「日向子浮世絵」を見て思い出してみませんか?   花見、吉原、行水、金魚売り、夕涼、紅葉、夜そば売り、火鉢、寒詣り……。町娘の純情な恋や、スネかじりの若旦那、長屋の夫婦喧嘩など江戸庶民の日常ドラマ……。現代の浮世絵師・杉浦日向子が「柳多留」などの古川柳を題材に、愛情を込めてしみじみと江戸の泰平を描き出す。1988年文春漫画賞受賞作。

 

古川柳で前後をはさんだ、江戸の暮らしのひとひらを描く漫画です。

恋愛や嫉妬、風物や四季、文字だけだとピンとこない江戸の日常が、絵が入ることで

すっと理解できます。