アイウエオ順に並べてみます。
・有栖川有栖「ダリの繭」
・池澤夏樹「マシウス・ギリの失脚」
・伊坂幸太郎「あるキング」
・岡田淳「こそあどの森の物語」
・恩田陸「ドミノin上海」
・クラフト・エヴィング商會「星を賣る店」
・斉藤洋「白狐魔記」
・吉本ばなな「アムリタ」
サルバドール・ダリの心酔者の宝石チェーン社長が殺された。現代の繭とも言うべきフロートカプセルに隠された難解なダイイング・メッセージに挑むは推理作家・有栖川有栖と臨床犯罪学者・火村英生!
不可解な謎には合理的な答えがあって、
犯人はこの人しかいないという謎解きの楽しさがありました。
そしてラストシーンには切り開かれるような痛みを感じました。
無重力を体感できるフロートカプセルというものが出てきて、
初めて読んだ時には不思議なものがあるんだなあ、と思いましたが
アイソレーションタンクとも言われているものでしょうか。
舞台は、毎朝、毎夕、無数の鳥たちが飛びまわり、鳴きさわぐ南洋の島国、ナビダード民主共和国。鳥たちは遠い先祖の霊、と島の人々は言う。
日本占領軍の使い走りだった少年が日本とのパイプを背景に大統領に上り詰め、すべてを掌中に収めたかに見えた。だが、日本からの慰霊団47人を乗せたバスが忽然と消え、事態は思わぬ方向に転がっていく。
善良な島民たちの間で飛びかう噂、おしゃべりな亡霊、妖しい高級娼館、巫女の霊力。それらを超える大きな何かが大統領を飲み込む。
豊かな物語空間を紡ぎだす傑作長編。谷崎賞受賞作品。
読み終わるのが惜しくなるような小説です。
ナビダード民主共和国は架空の国なのですが、歴史や文化があんまり具体的に描かれているので、
こんな国があってもいいんじゃないか、むしろないほうがおかしいんじゃないか、
という気分になりました。
山田王求(おうく)。プロ野球チーム「仙醍(せんだい)キングス」を愛してやまない両親に育てられた彼は、超人的才能を生かし野球選手となる。本当の「天才」が現れたとき、人は“それ”をどう受け取るのか──。群像劇の手法で王を描いた雑誌版。シェイクスピアを軸に寓話的色彩を強めた単行本版。伊坂ユーモアたっぷりの文庫版。同じ物語でありながら、異なる読み味の三篇すべてを収録した「完全版」。
こんな小説は、読んだことがありません。
後味はいいけれど、単純にハッピーエンドとはいえません。
「SOSの猿」とも似た雰囲気があると思います。
「この森でもなければ その森でもない あの森でもなければ どの森でもない
こそあどの森 こそあどの森」
小学生のときに知って、折に触れては読んでいたシリーズが完結しました。
誰ともなく、見届けたぞという気持ちになりました。
謎の音階をめぐって、時空を超える旅が始まる。
不可思議な音階がジャズピアニスト・希梨子を時空を超える冒険に巻き込んでいく。現代から第二次大戦末期のドイツへ……。解説者による、本作品のためのオリジナル楽譜も収録。(解説・山下洋輔)
たとえば主人公、希梨子のセッション。
弟子志望の佐和子ちゃんとのやりとり。猫との交流。
緊迫している状況でもどこかのんきな語り口がおもしろく、
どこから読んでも楽しめます。
幻の至珠「蝙蝠」が香港から上海に密輸された。無事に密輸を成功させ、オークションで高値で売り抜けることを目指す骨董商、蝙蝠の行方を追う香港警察の攻防は熾烈を極める。
物語の舞台となるのは上海の一流ホテル「青龍飯店」。そこにはゾンビ映画を撮影中のご一行、スピード違反で上海警察に追われる寿司配達人、アートフェアに呼ばれた高名な彫刻家ら多様な人々が集まった。さらには上海動物公園から逃げ出したパンダに、成仏できない死んだイグアナもやってきて……。
もつれ合う人々、見知らぬ者同士がすれ違うその一瞬、運命のドミノが次々と倒れてゆく。
抱腹絶倒、スピード感溢れるパニック・コメディ。
寝る前に読み始めたのですが、読み終わるまで眠れませんでした。
この展覧会はうそかまことか――。クラフト・エヴィング商會の棚おろし的展覧会公式図録。文学、デザイン、アートを軽々と渡り歩く同商會の魅力と新たな世界が満喫できる約3年ぶりの新刊。
人間はなぜ殺しあうのか。源義経、北条時宗、楠木正成、織田信長…。不老不死の術を習得した仙人きつね・白狐魔丸は、その答えを探して歴史上の人物との出会いをかさねます。タイムファンタジーの形をとりながら、日本史の面白さにせまる人気シリーズ。
2019年、7年ぶりの新刊「天保の虹」が出版されました。
主人公のきつね、白狐魔丸は歴史的な件に関わることはなく、
少しだけ人と交わって、いろんな人間を知っていく。
そのさっぱりした距離感が、なんとも心地よいです。
「人が死ぬのって、素敵よね」彼女は僕のすぐ耳もとでしゃべっていたので、その言葉はあたたかい湿った息と一緒に僕の体内にそっともぐりこんできた。「どうして?」と僕は訊いた。娘はまるで封をするように僕の唇の上に指を一本置いた。「質問はしないで」と彼女は言った。「それから目も開けないでね。わかった?」僕は彼女の声と同じくらい小さくうなずいた。(本文より)
初めて読んだ村上春樹が、これです。
ページをめくって、よくわからなくて、それでも読んで、読み終わったら
また読みたくなって…という小説も、初めてだったかもしれません。
世界が繋がっている感じが好きです。
先輩の必死の努力は黒髪の乙女に伝わらず、乙女の楽しい冒険を先輩は知らない。
ぬっとあらわれるのはきらびやかな電車のようなものかもしれず、
激辛鍋の我慢大会かもしれず。
京都に住んでいないことを、惜しく思ってしまいました。
文庫版の解説を羽海野チカが描いているのですが、それがなんともステキです。
妹の死。頭を打ち、失った私の記憶。弟に訪れる不思議なきざし。そして妹の恋人との恋──。流されそうになる出来事の中で、かつての自分を取り戻せないまま高知に旅をし、さらにはサイパンへ。旅の時間を過ごしながら「半分死んでいる」私はすべてをみつめ、全身で生きることを、幸福を、感じとっていく。懐かしく、いとおしい金色の物語。吉本ばななの記念碑的長編。
アナザーワールドでのだらだらした日常を描きたかった。オカルト精神というかニューエイジ精神が現実に負ける様を描きたかった。こわれた家族が再機能しはじめるのも書きたかった。きょうだいについて書きたかった。三島由紀夫の「美しい星」みたいな大まじめに狂った家族が書きたかった。みんな足してしまったのです。
「B級BANANA」岡崎京子からの質問より
「同じ家に長いこといなければ、たとえ血がつながっていても、
なつかしい風景の一つとして遠ざかってゆく」
というところは、私の家族観になっていると思います。