唐桃の読んだもの。

読んできた本や漫画を、徒然に紹介していきます。

中国についての本を読みました。~赤瀬川原平「香港頭上観察」、小田空「中国の思う壺」、糸川燿史×中島らも「流星シャンハイ」」

 

香港頭上観察

香港頭上観察

 

 香港の町を歩いていくと、

こちらの感覚も何だかイリーガルな領域に踏み込んでいく。

もちろん人々が暮らしているんだからちゃんと法律はあるだろうが、

破られる法律と、守られる法律とが毎日勝負をしていて、

その勝負を挟んで暗黙の法律が作られていく。

 

 イギリスから香港が返還されたのは、1997年。

当時小学生だった私には、よくわからないことでしたが、

それでももりあがっているという空気が伝わってきました。

 この写真集は、まさにその年の上海を撮ったものです。

 

植物のように、空に向かって高く伸びている建物。

窓から伸びる物干しと、干される洗濯物。

まるで建物自体がエネルギーを放出しているようでした。

 

中国の思う壺〈上〉

中国の思う壺〈上〉

 

 こちらの著者が訪れたのは、まず1984年の中国。

 そこの人々にうちのめされ、振り回され、だけど惹きつけられ、

最初は旅行者として訪れた彼女は、語学留学生として学び、

下巻では教育大学で日本語教師として教えることになります。

 

読んで思ったのは、

あっちとこっちは違うルールでうごいているということです。

その、「あっち」「こっち」というのは国でもあり、

同じ国の中の地方でもあり、

同じ地方にある家でも、家に住む個々人でもあるわけですが。

良いとか悪いとかではなく、ただ違うのだと。

 

 

流星シャンハイ

流星シャンハイ

 

そしてこちらは、 1985年から1994年に撮られた上海の写真と、

短篇小説がいくつか。

小説では道端に放り出されたような余韻が残り、

写真は街のざわめきや熱、匂いが伝わってくるようでした。

ジャンプする本を読みました。~古川日出男「サマーバケーションEP」、林ナツミ「本日の浮遊」、青山裕企「ソラリーマン」

年を越すとき、ジャンプをすると決めていたときがありました。

重力に囚われるのは、それはもうしかたないこと。

だから飛び上がっているときに、数秒間だけでも

解放されているような気になったのかもしれません。

 

今日は、ジャンプが印象に残る本を紹介します。

サマーバケーションEP (角川文庫)

サマーバケーションEP (角川文庫)

 

 

季節は夏、舞台は東京。

井の頭公園でたまたま出会った彼らは、

海に向けて神田川沿いを歩きます。

出会いながら、別れながら、川の流れのように

 

そして、飛びます。

ジャンプした時は永遠になります。

最後のページを読んだときに、

飛び上がった瞬間が切り取られたように思ったのですが、

物理的にそんな浮遊した瞬間を切り取ったのが、こちら。

本日の浮遊 Today's Levitation

本日の浮遊 Today's Levitation

 

 

 重力を無視するというテーマで、彼女は跳びます。

歩道で、トンネルで、駅のホームで。

階段で、河原で、台湾で。

飛び上がってから飛び降りるまでの、浮遊した瞬間を狙って、

シャッターを切ります。

 

普通に立っているときと、ジャンプしている時の表情の違いに

驚いたのが、こちら。

ソラリーマン―働くって何なんだ?!

ソラリーマン―働くって何なんだ?!

 

 

各地のサラリーマンを正面から撮った写真と、

彼らが飛び上がった写真。

名刺を持つ手と、仕事について思うところを書かれた文。

 

スーツで仕事をすることが日常なら、

スーツでジャンプするのは非日常。

 日常と非日常の境目をたどるような本でした。

冷たいお菓子の本を読みました。~蒼井優「今日もかき氷」、おいしい文藝「ひんやりと、甘味」、米澤穂信「氷菓」

アイスクリームなら冬でも売っているし、おいしく食べられるけど

かき氷は夏限定、という気がします。

今年もかき氷のおいしくなる季節がやってきました。

 

今日も かき氷 【完全版】 (CASA BOOKS)

今日も かき氷 【完全版】 (CASA BOOKS)

 

蒼井優が、こんなにかき氷が好きだったとは知りませんでした。

おいしそうな笑顔も、山になったかき氷の写真も、とってもフォトジェニック。

この本では、日光にあるという、天然氷を作る氷室見学もしていました。

すき通った氷がきれいで、

これでつくったかき氷はどんなにおいしいんだろうと思いました。

紹介されているお店は、東京、名古屋、京都、沖縄、台湾やハワイまで。

しろくまが食べたくなりました。

 

 

幸田文から朝吹真理子獅子文六から重松清

100年近い時間をまたいでのエッセイ・アンソロジー

アイスクリーム、クリームソーダ、カルピス、ところてん、麦茶、水ようかん・・・

と、冷たく甘いお菓子についての文がつまっています。

「食べる」というものは、ただ食物を摂取するというだけではなく

思い出を味わうものでもあるのだと思いました。

 

印象に残ったのは、

馳星周のマンゴープリンを初めて食べたときの話や、

酒井順子のゼリーの食感について書いているものなど。

 いろんな人の文章に触れられるのが、アンソロジーのいいところですね。

 

 

それから、氷菓子といえば。

氷菓 (角川文庫)

氷菓 (角川文庫)

 

 これ、私が主人公と同じ、高校生くらいのときにはピンとこなかったんですけど、

それから5年くらいたって、おもしろいって思えるようになりました。

新刊「いまさら翼といわれても」も、早く読みたいです。

 

 

なろう小説を読みました。~犬塚惇平「異世界食堂」、支援BIS「辺境の老騎士」

小説家になろう」というサイトがあるのを、ご存知でしょうか。

日本最大級小説投稿サイトで、

作品の中には書籍やアニメになったものも結構あります。

そのうちの一つが、こちら。

 

先日4巻が発売されたところです。

 

1週間に1度、世界のあちこちに扉が現れて

そこは違う世界の食堂につながっている・・・という、

1話完結のオムニバス。

基本的には、食堂に訪れた客が食事をして、もといたところに帰る・・・

というものですが、バリエーションがこんなにあるものか、と驚きます。

おいしくご飯を食べている描写が、とてもいいです。

 

この物語のつくりは、

 「テルマエ・ロマエ」とちょっと似ていると思うのです。

 違う世界と、自分のいる世界を行ったり来たりして

影響されるというところが。

異世界食堂」では料理を、「テルマエ・ロマエ」では浴場を。

自分にとって大事なものを、よりよいものに変化させていきます。

 

 

で、おいしい料理つながりでもう一つ。

辺境の老騎士 1

辺境の老騎士 1

 

彼は知らない。

これがのちに、世界中で語り継がれる冒険の始まりとなることを。

 

老騎士バルド・ローエンの死ぬための道行きが、

死ぬまで生き抜くための旅へと変わっていく。

お家騒動、魔獣との戦い、ほのかな恋愛・・・

旅の中での物語は王道のおもしろさを感じさせてくれますし、

各地の美味が良いアクセントを加えてなります。

ウィジクのあぶりやき、ノゥレのプディング煮、ゆでたてのギー、etc。

その世界の食べ物のおいしさが感じられます。

 

 

百物語を読みました。

 百。

一つ一つ集められた物語は、

百集まることによって、また新しい形が生まれます。

 

新耳袋―現代百物語〈第1夜〉 (角川文庫)

新耳袋―現代百物語〈第1夜〉 (角川文庫)

 

 たぶん、このシリーズで百物語の楽しさを知ったのだと思います。

一夜で百話を語り尽くすおもしろさは

 「女たちの百物語」「男たちの百物語」が、教えてくれたのですが

それはまたの機会に。

 

このシリーズには、因果関係がわかりやすいもの。

キツネかタヌキに化かされたようなもの。

何だったのかわからないもの。等々、

奇妙で、不思議で、ぞっとする話がたくさん収められています。

 

うたう百物語 Strange Short Songs (幽ブックス)

うたう百物語 Strange Short Songs (幽ブックス)

 

 

 百年に渡る奇妙な味の短歌と、

そこから生まれた掌編百話。

見開き2ページにおさまるような長さの物語に、

密かな息づかいを感じました。

 この歌からこの物語が生まれたのか、と掌編を読み、

この物語はこの歌から生まれたのか、と短歌を読みます。

読み返す度、違うものが印象に残る本です。

 

中国百物語

中国百物語

 

 

中国の怪奇譚を紹介するメールマガジンから、

生まれた本だそうです。

もとが客観的な記録であっただけに、

簡潔で分かりやすい文章なのだけど、

わかりやすいオチも解釈もないので、

キツネにつままれたような気分になりました。

 その分、あとを引きます。

 

 

日記について書かれた本を読みました。

日記をつけることは、自分のそばに、

自分とは少しだけちがう自分がいることを感じることなのだ。

 

日記をつける (岩波現代文庫)

日記をつける (岩波現代文庫)

 

私的な日記、

公表された日記、

兄弟で書いた日記や、日記に書かれることや文体、

父親が書いた日記を見る子供に、

日記から生まれる作品・・・

 

いろんな人の書いた日記を紹介しながら、

日記ってどういうものなのか、

どんなふうにつけるものなのか、ということが見えてくる本です。

 

 

東京日記3 ナマズの幸運。

東京日記3 ナマズの幸運。

 

 

 「少なくとも、五分の四くらいは、本当です」

 という、著者の身の回りでおこった出来事。

一日の中から何を取り出して、どう表現するかという

日記を書く才能、というのもあるのかもしれないと思いました。

 

この本では、暑い日について

 「ひょいひょい暑い日」「むらむら暑い日」「せつに暑い日」など

表現していたところが、とりわけ印象に残りました。

 

意識していなかったことをことばにする、使い分けるおもしろさ。

 

 

世の中は偶然に満ちている (単行本)

世の中は偶然に満ちている (単行本)

 

 そしてこちらも。

著者が出会った偶然について、夢について。

 30年にわたり手帳に記録されていた出来事が、本になりました。

ベトナムでの本を読みました。

ベトナム犬の街かど

ベトナム犬の街かど

 

 昨年台湾に行った時、

雑踏の中に、犬がトコトコ歩いていたのが印象に残っています。

お店の前で、微動だにしないシェパードもいたのですが、

つながれるでもなんでもなく、人の間を縫うようにして進む犬を、

日本では見たことがなかった気がします。

 

この本は、 ベトナム各地の犬の写真が

著者の文章とともに収められています。

他にも猫や犬の本をたくさん書いているので、

他のものも読んでみたいと思いました。

 

ベトナム低空飛行

ベトナム低空飛行

 

 女学生のアオザイ、ベランダに干された洗濯物、

スコール、きっちり並べられたお店の売り物。

眠る犬、眠る猫、眠る人、

道端に干された洗濯物、と洗濯物がとりわけ印象に残る写真集です。

 

犬や猫が、愛でられてはいなくとも

街の一員としているところが好きです。

街は人だけのものじゃないんだってことですね。

 

ベトナムよちよち歩き

ベトナムよちよち歩き

 

 

  こちらは、小説家と漫画家の友人でむかう、

ベトナム11泊の旅の出来事が文章と漫画と写真でかかれています。

 その中でも、友達に「おばあちゃん、足下気をつけてね」

「おばあちゃん、そこ段差だよ」

ということを言ってたら、現地のガイドさんが

そういう名前だと思ったのか、

船酔いしてトイレにこもっている彼女に

「オバアチャン ダイジョブデスカ オバアチャン!」

と呼びかけられた、というエピソードが印象に残っています。

 

ベトナムについてあまり知りませんでしたが、

興味が沸いてきました。