唐桃の読んだもの。

読んできた本や漫画を、徒然に紹介していきます。

恋愛について書かれた本を読みました。~三浦しをん「愛なき世界」、 川上弘美「大好きな本 川上弘美書評集」、ニコルソン・ベイカー「もしもし」

現代社会の人間関係を描いたものには、途中で辛くなって

読み進めるのに体力が必要だったりする本もあるのですが、

今回紹介する本はそういったストレスを感じませんでした。

そしておもしろい。

 

愛なき世界 (単行本)

三浦しをん「愛なき世界」

洋食屋「円服亭」の見習い、藤丸陽太は、

植物学研究者をめざす本村紗英に恋をした。

 

語り手はこの2人なのだけど、

単純に2人が恋をする話ではないところが好きです。

時々、やたらずかずか入ってくることを親愛とするような人がいますが

そんなことにはならず、お互いが距離感を大事にしながら

少しづつ親しくなっていくけれど、それがメインにはならない。

 

藤丸の周りには、洋食屋の店長が作る料理の描写があり、

本村の周りには、同じ研究室の仲間や教授がいる。

そこには、それぞれの物語がある。

 確かに恋愛小説なのだけど、それだけでは終わらないしはじまらない。

そこが好きです。

book.asahi.com

川上弘美書評集 大好きな本 (文春文庫)

 川上弘美「大好きな本 川上弘美書評集」

books.bunshun.jp「愛なき世界」のすぐあとにこの本を読んだので、

この本に収録された書評の中でも、

愛について書いているところが目につきました。特に、

 

いつも思うのだが、なぜ多くの人は恋愛などという

しちめんどくさいことをするのか。恋愛なんぞに背を向けて

平穏で静謐な生活を送っていれば、

どれだけ効率的な人生を送れることか。

しかしなぜか人は恋愛をする。必ずしも生殖を目的とするわけでもなく、

合目的的にいえばまったく無駄に、どんどん恋愛をしてしまうのである。

(木村義志「机の上で飼える小さな生き物」)

 

愛することは、普遍的でありながら、それぞれの営みにおいて

差異の大きい事柄だから、愛の物語を読むのは面白い

(実際に人を愛することが面白いとは限らないけれど。

人を愛することって、じつに難しい。愛は美しく素晴らしい、

さああなたもどんどん人を愛しなさい、と簡単に言う輩を見ると、

わたしは思わず石を投げつけたくなる)。

(ターハル・ベン・ジェルーン「最初の愛はいつも最後の愛」)

 

この小説の中に書かれている愛は、見えるだけでなく、

さわれる感じがする(夏石鈴子「夏の力道山」)

 

などが印象に残ったのですが、

 これに紹介されていた1冊がこちらです。

 

もしもし (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

ニコルソン・ベイカー「もしもし」

 

互いに見知らぬ男女が交わす、電話ごしの会話だけで進む物語。

指一本触れずに、声を荒げることもなく、

自分の性癖をさらしあう。

ameblo.jp切ろうと思えばいつでも切れる電話の中で会話をしていくのは、

ちょっと気持ち悪くもあり、通じ合うようなところもあり、

その場所、その相手でしかなりたたないような時間と

お互いのファンタジーが否定されずに共有されていくことの

充実感があって、 満たされた気分が残りました。