唐桃の読んだもの。

読んできた本や漫画を、徒然に紹介していきます。

南方熊楠が登場するミステリーを読みました。~東郷隆「名探偵クマグスの冒険」、鳥飼否宇「異界」

南方熊楠

1867年生まれの、和歌山が生んだ博物学の巨星と言われています。

記念館のHPによれば、

 

東京大学予備門中退後、19歳から約14年間、

アメリカ、イギリスなどへ海外遊学。

さまざまな言語の文献を使いこなし、国内外で多くの論文を発表した。

研究の対象は、粘菌をはじめとした生物学のほか

人文科学等多方面にわたり、民俗学の分野では

柳田国男と並ぶ重要な役割を果たした。

生涯、在野の学者に徹し、地域の自然保護にも力を注いだ

エコロジストの先駆けとしても注目されている。

 

とあります。ちなみに、南方熊楠の帰国と入れ替わるようなかたちで

夏目漱石がイギリスに留学生としてやってきたとか。

 

その留学時代、19世紀のイギリスを舞台にした小説が、こちらです。

名探偵クマグスの冒険 (静山社文庫)

 東郷隆「名探偵クマグスの冒険」

 

各国の人々が様々な目的から集まるロンドンで、

若き日の南方熊楠が、遭遇する奇怪な事件を

博覧強記の知識と、豪胆な行動力で解決していく。

 

実際にその時そこにいた人と、架空の人物。

あったこととあったかもしれないことをブレンドして書かれていて、

その時代についても興味が沸いてきます。

 

そうして遊学のち、南方熊楠は日本に帰国するのですが、

それからの話がこちらです。

異界

鳥飼否宇「異界」

 

1903年の春、那智勝浦で奇怪な少年が目撃されるー。

そのすぐ後に病院から乳児がさらわれ、

 南方熊楠と、その弟子が解決に乗り出します。

 

神話や狐つき、山の民。

民俗学や植物学についてや、意外な人物の登場など、

いろんなところから楽しめ、そして騙されました。 

 

夏の暑さにふっと意識が遠のくような描写や、

「世界は名前からはじまる」というところなども印象に残ります。

 

また、今年の4月18日には、南方熊楠が主人公の小説

「ヒト夜の永い夢」が発売されるそうです。

 

 

ハヤカワ文庫ですし、SF要素も入ってくるのでしょうか。

読んでみたいですね。

岡上淑子の、「フォトコラージュ 沈黙の奇跡」展に行きました。

Twitterで見かけて興味を持ち、東京都庭園美術館で行われている

岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟」展を見にいきました。

岡上淑子全作品

岡上淑子全作品

この本は、作者が在住する高知県

2018年に行われた展示「はるかな旅」の図録でもあります。

 

1950年代の、戦後まもない東京で、

こういう作品を作っていた人がいたのか、と

目が覚めるような気分になりました。

はじめて見たときの、はっと息を呑むような感覚を、覚えています。

 

何かを見て、美しいと思うことはときどきありますが、

それには2種類あります。

植物や自然の風景、生き物へ対するものと、

鉱物や人形、作られたものの、そこで時間を止めたようもの。

このコラージュの場合は後者で、写真と写真の

思いもしないような組み合わせが、

いくつも世界を生み出していくようでした。

 

東京人 2019年 04 月号 [雑誌]

「東京人」でも、与那原恵による記事が紹介されており、

「写真たちは、時間も国も、遠近もない、この世にあり得ない

シュルレアリスムの世界へと連れ去られる。

光射す木立の前に、船倉の瓦礫の中に、豪壮な室内に、

押し寄せる大波のきわに。」というところが印象に残り、

この人が書いた本も読んでみたくなりました。

読みたい本がどんどん増えていきます。

 

4月7日までの展示なので、ちょっと残り時間は少ないのですが・・・

東京都庭園美術館自体も、また素敵なところでした。

紅葉もきれいだそうなので、今度は秋に行ってみたいですね~。

ヒグチユウコ「CIRCUS」展に行きました。~糸井重里「思えば、孤独は美しい。」についても。

絵画や彫刻、切り絵など、

細部までできあがっている作品を見てうっとりするような、

自然と笑顔になるような気持ちをなんと呼ぶのでしょう。

陶酔、というものなのかはわかりませんが、

この人の作品を見ていると、そんな気持ちになります

ヒグチユウコ画集 CIRCUS

ヒグチユウコの20年にわたる活動を紹介する、

大規模展覧会「CIRCUS」は、世田谷文学館で3月31日まで行われ、

そのあと兵庫、広島、静岡、高知・・・と、各地を巡回する予定です。

くわしいスケジュールはこちらからどうぞ↓

higuchiyuko-circus.jp こちらの記事でも少し紹介しましたが、

ワニとネコ、タコやウサギ、キノコに魚、

太古から生息する植物の一種ひとつめちゃん、

「きみはネコなの? ヘビなの? タコなの?」と聞かれる

ギュスターヴくん・・・

かわいくもちょっと怖い、不思議な生きものを堪能しました。 

カカオカー・レーシング Imai Masayo Artworks ギュスターヴくん (MOEのえほん)

カカオカー・レーシング TOBICHIグランプリ! - ほぼ日刊イトイ新聞

ギュスターヴくん|白泉社ブックス

 

様々なサイズの原画やポスターが展示された空間には、 

小さなのぞき穴や抜け穴があったり、

壁にメッセージが書かれていたりして、あまりに楽しいからか

3月9日からの入場は日時指定の前売券が必要になっていました・・・。

行かれる方はお気をつけください。

 

ヒグチユウコの絵は、この本にも使われています。

思えば、孤独は美しい。

糸井重里「思えば、孤独は美しい。 」

 

糸井重里が1年に書いたすべての原稿とツイートから、

こころに残ることばを集めて1年に1冊編む本

「小さいことば」シリーズの、2007年から数えて11冊目の本です。

楽しい言葉も、ふっとさびしくなるような言葉も、

 2017年がぎゅっとつまっているようで、

なんというか、悲しいこともうれしいことも、

何もかもが続いていくのだなあと思いました。

夢についての本を読みました。 ~久住昌之「夢蔵―Dream Collection」、川田絢音「空中楼閣 夢のノート」

長崎駅に図書館が隣接していました。

ルビーは時間がたてばオパールになるものでした。

6本足の猫のような生き物と並んで歩いていました。

これらは私の見た夢に出てきたものですが、

夢の中では何が出てきても不思議には思わないことがほとんどです。

行ったことのない長崎駅から最寄りの図書館までは

1キロくらい離れているようですし。

 

そんな夢の一部を、客観視できるようにしたのがこちらです。

 久住昌之_夢蔵

 久住昌之「夢蔵―Dream Collection

 

眠った脳の未知なる世界を「作品」化し、

いまだ解明されることのない「夢」の神秘に迫る前代未聞の試み

 として、誰かが見た夢の中に出てきたものを、

作者がイラストにした本です。

人の夢の話はつまらない、という話はよく聞きますが

絵として書かれると、こんな発想はなかったとおもしろく感じました。

 

http://shoshiyamada.jp/gif/199106248.jpg

川田絢音「空中楼閣 夢のノート」

 

どれもほんの数行、ものによっては一文で終わる詩集です。

文と文の間の空白や、映像にはできない言葉の使い方が

不穏で、静かで、部分的にくっきりしていて、

自分でもこんな夢をみたような気分になりました。

 

くり返し、何か崩れていく。「こんなふうに崩れるのだ」と納得している

実感だけがあって、見えるものもない。具体的な手ざわりは流れ去って

消えてしまっている。(崩れる)

 

大分後で、吉田悠軌の「一行怪談」を読み、

共通する雰囲気があると思いました。とはいえこの本の作品は、

詩ではなく物語である。

物語の中でも怪談に近い。

と定義されているのでまた違うものなのですが。

www.php.co.jp

フィンランドについて書かれた本を読みました。~稲垣美晴「フィンランド語は猫の言葉」、森下圭子/武井義明「フィンランドのおじさんになる方法。」リトヴァ・コヴァライネン/サンニ・セッポ 「フィンランド・森の精霊と旅をする Tree People」

フィンランド語は猫の言葉 (講談社文庫)

稲垣美晴「フィンランド語は猫の言葉」

 

今から40年以上前、1970年代末のころ。

現在よりもずっと、フィンランドが遠い国であったころ。

1人の芸大生が、そこに留学した・・・。

 

私はこの本を、黒田龍之助の書いたものから知りました。

まさに「すばらしく楽しいエッセイ」にして、留学記です。

 

日本ではないから勝手が違って面倒だったり、

自分1人ができなかったりすることの悲しさも書いているけれど、

劣等感におぼれずに楽しいことをたくさん感じているところに

著者の強さを感じました。

 

ここで私は近藤聡乃の「ニューヨークで考え中」にも

そんな描写があったことを思い出し、本棚から抜きだしました。

ニューヨークで考え中(2)

ニューヨークでの暮らしは水に合っていて、

楽しいことの方がずっと多かったけれど、

自分が少数派であることで辛いことがあると

日本のマイノリティーにも思いを馳せる・・・というところに、

通り過ぎることと生活していくことは

また違うのだよな、とも思いました。

 

 フィンランドで生活している人を紹介しているのが

ほぼ日刊イトイ新聞 - フィンランドのおじさんになる方法。

です。

フィンランドのおじさんになる方法。

 

著者の1人、森下圭子は

ムーミントーベ・ヤンソンについて研究しており、

ムーミンの公式サイトでもブログを書いています。

www.moomin.co.jp

この本で紹介されるのは、

フィンランドでごくごく普通に生きている、11人のおじさん。

アコーディオン楽団のエーリクさん、きこりのレオさん、

白樺の皮を使って工芸を行うエイノさん・・・

フィンランドでの「きこり」は、

全員が森林管理局に属する公務員なんだそうです。

 

いろんなものを作っていくことや、

冬の暮らしについてインタビューをしたり、

薪割りやサウナを体験したりと、

間接的にでも知ることで、そこで生きている人に近づける気がします。

 

そしてフィンランドの美しい森については、こちらを。

フィンランド・森の精霊と旅をする - Tree People (トゥリー・ピープル) - 

リトヴァ・コヴァライネン、サンニ・セッポ

「フィンランド・森の精霊と旅をする Tree People」

 

著者である2人の写真家が、15年にわたりフィンランドの古い木々と、

その歴史を訪ねていく写真集。

日本の山とは色合いから違い、

ひんやりとした静かな空気が漂ってくるようでした。

写真について説明する本を読みました。~大竹昭子編「この写真がすごい」、赤瀬川原平「鵜の目鷹の目」

この写真がすごい2008この写真がすごい2

大竹昭子「この写真がすごい」

 プロの写真家もアマチュアも、発表された媒体も関係なく選ばれた

「ちょっと気になる」写真。

ただきれいだけじゃない、繰り返し見たくなる、どこか不思議な写真。

そのどこに惹かれるのか、編者が短い文章にしています。

 

この本が作られるまでの詳しい経緯や、具体的な写真は、

ほぼ日刊イトイ新聞」の記事にも書かれており、

見ている方の視界さえ変える写真というものについて

考えずにはいられませんでした。

 

www.1101.comあ

 まず写真を見て、文章を読む。

そうして、自分が見ていたようで見ていなかった、

目に写しているだけだったものに気づく。

そしてまた写真を見たとき、印象は変わっている。

そういう詳しさを、もっとつきつめたものがこの本です。

 

鵜の目鷹の目

赤瀬川原平「鵜の目鷹の目」

 

世の中で何が面白いといって、

言葉の届かないものがいちばん面白いのだ。

 

写真に写っているものを、よくみる。

よくよく見る。鵜の目鷹の目で観る。

 

たとえば、「木村伊兵衛写真全集」からの一枚。

昭和22年11月16日に、銀座で撮られた写真を見る。

街角で男が2人話しているようなのだけど、

その服装を見る。2人の関係を想像する。

どんな会話をしているのか妄想する。

ここは銀座のどこなのか考える。

映画のポスターに描かれた俳優を見る。小さく写ったガラス瓶を見る。

ちょっとふくらんだ、あれはコーラの瓶?

これは名作と呼ばれる白黒写真を、うのめたかのめで見つめ

おもしろさを発見していく本です。