唐桃の読んだもの。

読んできた本や漫画を、徒然に紹介していきます。

手紙に関わる本を読みました。~吉田篤弘「遠くの街に犬の吠える」、藤井咲子「おじいちゃんの封筒」、久保田沙耶「漂流郵便局 届け先のわからない手紙、預かります」

 世に「偶然」と称するものは多々あります。

しかし、ぼくとしては、あのときのあの出会いだけに「偶然」を使いたい。

でなければ、これほど沢山の手紙を書きつづけてきた理由が

わかりません。

遠くの街に犬の吠える (単行本)

 ぱあっと、情景が浮かぶ本でした。

たとえば、桃を切る感触、

古びたコンクリートの階段をのぼっていく時の反響する音、

封筒や便箋など、紙の手ざわりや遠くで聞こえる犬の鳴き声・・・

 

これは消えゆく音を収集する「ささやかな冒険譚」で、

読まれない手紙を送りつづける話でもあります。

 

ふっと空へとびたっていくような、

楽曲がふととぎれたような終りかたが、印象に残りました。

 

おじいちゃんの封筒―紙の仕事

 手紙といえば、かかせないのは封筒と便箋。

この本には、著者の祖父が15年以上にわたり作っていた

封筒が、カタログのように収められています。

 

最初は指を動かす目的もあったそうですが、

ダンボールやカレンダー、新聞、厚紙、ティッシュの箱など、

身近にあるあらゆる紙を使った何枚もの封筒は、

アートのようにも見えました。

アートとそれ以外のものに、境界線はあるのでしょうか。

 

漂流郵便局: 届け先のわからない手紙、預かります

こちらは、現代アートとして作られた空間です。

 

場所は、香川県の粟島。

そこにある小さな郵便局は、

「いつかのどこかのだれか」にあてた手紙が集まる場所。

 

もういなくなってしまった人にも、

これから生まれてくる人にも、

愛犬やボイジャー1号にも・・・

 

届けたいと思った祈りに似た気持ちが形となり、

この場所にやってきました。

 

この本の中では、漂流郵便局ができるまでの道のりや

実際の手紙、エピソードなどもたくさん紹介されていて、

いつか行ってみたいものだと思いました。

 

この場所を作った人、つまり著者にもまた

なみなみならぬバイタリティを感じます。

くらやみについて書かれている本を読みました。~村上春樹「騎士団長殺し」、茂木健一郎withダイアログ・イン・ザ・ダーク「まっくらな中での対話」

 「光の99,965%を吸収する物質」というものを、ネットで見かけました。

ペンタブラックと名づけられたそれは、ほとんど光を反射しないので、

物があるというよりも、

ただ切り取られた暗闇があるようでした。

それがとても印象に残ったので、

今日は「くらやみ」について書かれた本を紹介します。

騎士団長殺し 単行本 第1部2部セット

その場所でいちばんすごいのは、

そこがこれ以上暗くはなれないというくらい真っ暗だっていうことなの。

灯りを消すと、暗闇が手でそのまま掴めちゃえそうなくらい真っ暗なの。

そしてその暗闇の中に1人でいるとね、自分の体がだんだんほどけて、

消えてなくなっていくみたいな感じがするわけ。だけど真っ暗だから、

自分ではそれが見えない。身体がまだあるのか、もうないのか、

それもわからない。でもね、たとえぜんぶ身体が消えちゃったとしても、

私はちゃんとそこに残ってるわけ。チェシャ猫が消えても、笑いが残る

みたいに。

 

この本は、肖像画を描いている主人公と

その周りでおきる奇妙な出来事を書いています。

これまで書かれた小説の、いろんな要素が入っているので

何年かしたあとに、第3部が書かれていてもおかしくないと思います。

 (「ねじまき鳥クロニクル」がそうだったように)

 

村上春樹が書く小説には、あちこちに「」が出てきます。

ねじまき鳥クロニクル」の中では、古い井戸の中。

世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」では、

光のさしこまない地下洞と、そこで生きる生物「やみくろ」。

また、人の心の中の、自分でも認識していない部分。

 それは恐怖であり、安らぎであり、自分を変えるものでもあります。

 変わるのは、世界のほうかもしれませんが。

 

目が慣れる、ということがないほどの暗闇

行われるイベントもあるようです。

まっくらな中での対話 (講談社文庫)

その「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」の参加者は、

会場の中をアテンダントに案内されて動きます。

そこでは「とてつもなく面白い体験」が待っているそうですが、

ここではそれを

暗闇のソーシャルエンターテインメント」と、表現していました。

 視覚による情報処理ができない分、それ以外の感覚が活発化して、

とてもリラックスした気分になるそうです。

 

この中で、脳科学者の茂木健一郎

暗闇を母親の胎内、「マザー」的なものを想起させる、と

書いていました。

温かく、暗く、絶対的に守られている空間であるから安心できるのだと。

 

誘導してくれるスタッフは目が見えない、視覚障害者であるので

暗闇には慣れたもの。

その、アテンドスタッフとの 対談では、

見ることはイコールで触れることであったり、

目の見えない人の見る夢についてなど、

世界の認識のしかたなども書いてあり、興味深かったです。

同じものであっても、認識の仕方は様々・・・と言うと、

当たり前のことなのですが、実感がわいてきた気がしました。

犬が出てくる本を読みました。~エクスナレッジ「空飛ぶ犬たち」、宮部みゆき「パーフェクト・ブルー」、みやもとかずよし「こまいぬ」

FLYDOGS ―空飛ぶ犬たち―

 

犬が飛ぶ。

跳び上がった空中で、体勢を変える。

芝生の上を駆ける、雪原を跳ねる、花畑で遊ぶ。

フリスビーに飛びかかる、

ボールに向かって跳ぶ、

大勢で柵を飛び越える。

 鼻や毛並みがぴかぴかしていて、

躍動感があふれ、

見ているこちらもわくわくしてくる写真集です。

 

 

パーフェクト・ブルー (創元推理文庫)

 

今でもときどき、思い出すことがある。空き地の雑草を踏んで走る快さ。

球拾いに行って口にくわえたときの、硬球のザラザラした舌ざわり。

子供たちの柔らかな膝の裏側の甘酸っぱい匂い。

 

探偵事務所の飼い犬、元警察犬であるジャーマン・シェパードのマサ。

主に彼の視点から、ある事件が語られます。

 

この本は、中学生の時にはじめて読んだのですが、読み返してみると

野球や家族関係など、複数の要素が絡み合ったストーリーはもちろん、

文章にも、あちこちに惹かれる表現がありました。

女性の白いブラウスに夜のネオンが照り返しているところの、

「ここにいると、蛍光ペンになったみたいな気がするわ」という言葉なども、

その1つ。 

 

犬といえば、こちらも。

こまいぬ―不思議犬一六〇匹を散歩する

 

 名前も分からない誰かが作った、こまいぬ160匹。

こちらをにらみつけているものや

歯をむき出しているもの、

モデルになった犬がいたようなもの、

顔を線で描いたようなもの・・・

強そうなものも、愛嬌のあるものも、

狛犬って、こんなに個性豊かなものだったのか!

と、驚きました。

地元の神社も紹介されていて、うれしかったです。

夢枕獏の「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」と、そのコミカライズを読みました。

先日、映画「空海ー美しき王妃の謎」を、見てきました。

【映画パンフレット】 空海 KU-KAI 美しき王妃の謎  キャスト 染谷将太, ホアン・シュアン, 阿部寛, チャン・ロンロン, 松坂慶子, 火野正平,

 夢枕獏の原作「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」が

好きだったので興味を持ったのですが、

なるほどここを削って、ここを付け足して、

こういう風に変えたのか、という違いが面白く、

女性の衣装や髪型、

宮廷での宴の冗談みたいな豪華さや、幻術を見せるところなどは

大変きらびやかで、映像ならではの醍醐味を感じました。

 

中国では「妖猫傳」というタイトルで公開されているそうですが、

そのとおり、猫が大活躍する映画でもありました。

 

沙門空海唐の国にて鬼と宴す 全4巻セット

とは言っても、ボリューム感があるのはやはり原作。

唐では無名の僧である空海が、どんなことをして、

どんな人と知り合い、どう認められていったか、ということも

小説としてしっかり書かれています。うーん、伝奇ロマン。

 

そして原作のコミカライズは、こちら。

沙門空海唐の国にて鬼と宴す 壱 (カドカワデジタルコミックス)

 これは2013年に出版されたのですが、

得体の知れない企みごとの薄気味悪さと、

飄々とした空気をまとう空海が、想像以上に面白かったです。

映画ではなかったことにされている人物も出ていて、

続刊が出るなら、 ぜひ読みたいところ。

カエルに興味がわいてくる本を読みました。~草野心平「蛙のうた」、松橋利光・高岡昌江「ずら~りカエル ならべてみると・・・」、高山ビッキ「かえるる カエルLOVE111」

るてえる びる もれとりり がいく。

ぐう であとびん むはありんく るてえる。

 

ではじまる詩を知ったのは、

北村薫の「スキップ」ででした。

 それが草野心平と結びついたのは、ずっとあとのことです。

 

蛙のうた―草野心平詩集 (美しい日本の詩歌)

この福島生まれの詩人は、

カエルを題材とした詩をたくさん書いているのです。

最近読んでおもしろかったので、

今日はカエルについて書かれた本を紹介します。

 

学生のころは、ちょっと自転車をこいでいると、

道の左右に田んぼが広がっていました。

だからカエルの鳴き声を聞いたことはよくあるし、

浴室のガラスに小さいのがひっついていたこともあるのですが、

こんなにたくさんのカエルが、日本にいるとは知りませんでした。

ずらーりカエル ならべてみると…

日本に生息する43種類のカエルが、大集合。

足や目など、

それぞれの違いも比べられるようになっています。

 

また違ったかたちで、カエルの魅力を教えてくれるのは、こちら。

かえるる カエルLOVE111

 基礎知識からはじまり、

カエル好きな人々、いわゆるカエラーやカエルグッズ、

鳥獣戯画に描かれたトノサマガエルや

(兎を投げ飛ばしているやつです)

文化史など、「意外痛快愉快、そして不可解」なカエルについて

楽しみながら知ることができます。

ハングルについて書かれた本を読みました。~荒川洋治「ぼくのハングル・ハイキング」、茨木のり子・金裕鴻「言葉が通じてこそ、友だちになれる」、四方田犬彦・金光英実「ためぐち韓国語」

 語学というのは、習得を目ざすことではないという気持ちがある。

しゃべれるとか、話せるとか、

そんなことはどうでもいいとはいわないが、

学習をとおしてその人がふれていくもの、

みずからにおいて見出したものが

重要だという点は忘れたくない。

ぼくのハングル・ハイキング (五柳叢書)

 と、詩人である著者は書いていました。

この本は、主に著者や他の人の詩歌と

現地でのインタビューで成っています。

 

出版されたのが昭和63年なので、今とはまた違うのでしょうが、

少しだけ韓国について、

そこに住む人について親しくなることができた気がしました。

 

詩人とハングル、といえばこんな本もありました。 

言葉が通じてこそ、友達になれる

 茨木のり子は詩人で、

50歳をすぎてからハングルを習い始めたそうです。

 

この本は、言葉を習った金裕鴻先生との対談で、

2つの国の気質や考え、「あたりまえのこと」についての

違いなどを、おもしろく読みました。

 

その中の

「韓国の人に比べると日本人はみんな自閉症のように思える」発言に

そこまでかと驚いたのですが、

思えば書店でも、コミュニケーションやその重要性について

言及されている本をよく見る気がします。

多くの本で話されているということは、

そこが弱いということでもありますよね・・・

 

日本にしても韓国にしても、(あるいは他の国にしても)

いいところもそうでもないところも、

そこに合う人も合わない人もいるということなのかもしれません。

そして言葉はつねに変化するもの・・・といえば、

 

 言葉はつねに他所から運ばれてきます。

誰もそれを留めることはできません。

純粋な言語というのも、この世には存在しません。

それを主張するのは、権力者と語学教師だけです。

 

と、こちらの本では書いていました。

 

ためぐち韓国語 (平凡社新書)

 「のむ もっちょ」は、かっこいい!

「ぺこっぱ」は、おなかすいた。

「ちぐ  もはぬんごや」は、今何してるの?

 

などなど、日常で使われるような言葉の、韓国語での紹介と

それについてのエピソードが、見開きで紹介されています。

ひらがなで書かれた読み方は、

口に出してみると不思議な気分になりました。

 

ちなみに、猫は「こやんい」で虎は「ほらんい」だそうです。

イスラエルに関わる本を読みました。~ナタリー・ベルハッセン/ナオミ・シャピラ「紙のむすめ」、大桑千花「エルサレム・クロック イスラエルの春夏秋冬」、浅暮三文「似非エルサレム記」

 イスラエル、とちょっと検索してみると

物騒なニュースがたくさん出てきますが、

それはあくまで一面で、

 美しいところ、楽しいところもたくさんあるのですよね。

今日は、そんな本を紹介します。

 

紙のむすめ

 

 これは、飯田橋近くにある印刷博物館での企画

「世界のブックデザイン」で知った、イスラエルからの絵本。

 白い紙から生まれたむすめが、素敵なものを

どんどん切り抜いていく話です。

 

切り絵の作者ナオミ・シャピラは、

切り絵を40年以上も極めてきたそうで、

繊細な切り絵と、奥行きのある構成にはみとれてしまいます。

 

エルサレム・クロック―イスラエルの春夏秋冬 (私のとっておき)

 

イスラエルでの風景を教えてくれたのがこちら。

10年くらいエルサレムに住んでいた著者が送る、

1年間の祝祭と日常の紹介です。

 

イスラエルの桜とも呼ばれるらしいアーモンドの花、

死海、水タバコのカフェ、市場、拾った猫、

新年の祭ロシュ・ハシャナ、ユダヤのクリスマスハヌカ・・・

たくさんの写真がきれいで、眺めていて楽しいです。

 

また、小説では浅暮三文の「似非エルサレム記」がおすすめです。

似非エルサレム記

 聖地エルサレムが、意志を持ち動き出す・・・という話で、

場所の力、そこ自体が持つエネルギーを感じました。