唐桃の読んだもの。

読んできた本や漫画を、徒然に紹介していきます。

茶について書かれた本を読みました。~いしいしんじ「且坐喫茶」、池澤春菜「はじめましての中国茶」、青木幸子「茶柱倶楽部」

これは血だ。農茶とは、みどりの血じゃないか。

日々、赤い血にまみれていた戦国の武将たちは、

みどりの血、光の血を欲し、「和」を求めていった。

それは、ただ安寧を、長閑さを欲するのとはちがう、

命がけの「和」だったのではないだろうか。

 

且坐喫茶

いしいしんじ「且坐喫茶」

 

著者が各地で行われるお手前に参加しながら、

茶道について、茶について考えていき、茶を描写していく本です。

茶道はすごく自由で、楽しいものなんだ!

 と、目が覚めるような気持ちになりました。

 そこに関わってきた人々によって何重にも積み重なり、

今に至る道となったものと、茶会の中で出会う。

 

タイトルの「且坐喫茶(しゃざきっさ)」とは、禅の言葉だそうです。

且(しばら)く坐して茶を喫せよ、

「まぁ、お座りになってお茶でも飲みなさいよ」という意味。

 

作者が10年くらい前に出版したエッセイにも、

お茶の稽古に出かけたと書かれていて、

そのものと一緒に過ごしてきた時間が、

一層深みのあることばを生み出すのかと思いました。

 

 そんな緑茶は、中国でも歴史は長く

こちらの本によれば、最も飲まれているお茶だそうです。

はじめましての中国茶

池澤 春菜「はじめましての中国茶」

 

「SFのSは、ステキのS」池澤春菜は、

中国政府公認の国家資格を手にした中国茶の達人でもありました。

紹介によれば、 評茶員という茶葉の品質を鑑定する資格と、

茶藝師というお茶にまつわる文化や、美しいいれかたを学ぶ資格。

 

この本では、お茶そのものはもちろん

茶器やお茶界に関わってきた人の紹介も行っています。

紀元前までさかのぼっているところにまた、

茶の歴史の長さを感じずにはいられません。

 

結構専門的な用語も使われていたりするのですが、

そこは腕ですね。とてもわかりやすく書かれています。

お茶が好きな人が、好きなものをにこにこ話しているような

茶について詳しいとは言えない私でも、読んでいて楽しい本でした。

 

一緒に台湾に行った同行者に、

前に飲んだお茶をまた飲みたいといわれて

味や色を聞き、どんなお茶か推理していくところは

相手の望む本を探し出す図書館の司書のようでした。

 

お茶を探す、というところでは、こちらもまた楽しいです。

茶柱倶楽部 コミック 1-8巻セット (芳文社コミックス)

 青木幸子「茶柱倶楽部」

 

一包のお茶からはじまる、移動茶店茶柱倶楽部」。

全国の茶処と飲み手をつなぐという夢に向かって、

主人公・鈴が日本中を巡るオムニバス・ストーリーです。

台湾を中心にした巻もありました。

どうしてもありきたりな言い方になってしまうのだけど、

お茶はいろんな種類があるのだな、

服みたいに好みや体調で使い分けることができるものなんだな、

と感じ入りました。

給水塔について描かれた本を読みました。~比留間幹「給水塔 Beyond The Water Tower」、オオタマサオ「TOKYO WATER TOWER」、恩田陸「象と耳鳴り」

ようやく新居にインターネットがつながり、

ブログを再開できるようになりました^^

これからもよろしくお願いします。

さて、令和はじめてのブログは

団地などでときどき見かける給水塔についてです。

 

吉田篤弘の「台所のラジオ」にあった、

 

「あそこに、ほら、白い大きな塔があるでしょう? 

あれはなんの塔なの? なんだか夢のよう。

子どものころに読んだ本の中に出てきた

不思議なかたちの塔によく似ているんだけどー夢なの、これ」

 

「いえ、伯母さん、僕にも見えていますから夢じゃないです。

あれはたしか給水塔じゃなかったかな」

 

という一節が印象深く、

給水塔というものが気になるようになりました。

そこでたまたま見つけたのが、こちらの本です。 

 

給水塔 比留間幹写真集

比留間幹写真集『給水塔 Beyond The Water Tower』

6年以上をかけて都道府県の各地で撮られた、

給水塔のある63の風景が撮られています。

 ろうとのような形のもの、誰かが住んでいそうなもの、

ぬっと現れるもの・・・唐突に存在する給水塔の姿、

「不条理の塊」たるそれに、写真を見る私までその風景に立ち、

風にさらされているような気分になりました。

 

www.excite.co.jp

ここに写っている給水塔は、今もあるかどうかわかりません。

オオタマサオ「TOKYO WATER TOWER」によれば、

「現在では、給水システムの進化によって、

給水塔が新しく建設されることはほとんどなく、

老朽化した給水塔は壊され、新しい給水システムに移行している。

そのため、数を減らしており、やがてはその姿を見ることが

できなくなるかもしれない」とありました。

TOKYO WATER TOWER 

こちらも給水塔を集めた写真集ですが、

東京の団地の中にあるもの、と限定されています。

1つ1つの給水塔につけられたキャッチフレーズや、説明書きは

短篇小説の趣きもあります。

 

給水塔の出てくる小説で、思い出したのがこちら。

巨大なものが日常生活の中にある、

ぞっとするような部分が描かれています。

象と耳鳴り―推理小説 (祥伝社文庫)

 引退した判事、関根多佳雄が主人公のミステリー短編集で、

そのうちの1話が、まさに「給水塔」というタイトルなのです。

 

白い坂の向こうにそびえる黒い塔。

石造りで三角形の屋根を戴いた、古い給水塔。

 町を歩きながら、主人公と散歩仲間の時枝満が、

ある事件について語り合います。

一行目の「ほら、あれがその『人喰い給水塔』ですよ」に、

ぐっとひきつけられました。

 

 ここでモデルになった給水塔は、

著者が都営浅草線西馬込で見たものだそうですが、

 まだあるのでしょうか・・・

南方熊楠が登場するミステリーを読みました。~東郷隆「名探偵クマグスの冒険」、鳥飼否宇「異界」

南方熊楠

1867年生まれの、和歌山が生んだ博物学の巨星と言われています。

記念館のHPによれば、

 

東京大学予備門中退後、19歳から約14年間、

アメリカ、イギリスなどへ海外遊学。

さまざまな言語の文献を使いこなし、国内外で多くの論文を発表した。

研究の対象は、粘菌をはじめとした生物学のほか

人文科学等多方面にわたり、民俗学の分野では

柳田国男と並ぶ重要な役割を果たした。

生涯、在野の学者に徹し、地域の自然保護にも力を注いだ

エコロジストの先駆けとしても注目されている。

 

とあります。ちなみに、南方熊楠の帰国と入れ替わるようなかたちで

夏目漱石がイギリスに留学生としてやってきたとか。

 

その留学時代、19世紀のイギリスを舞台にした小説が、こちらです。

名探偵クマグスの冒険 (静山社文庫)

 東郷隆「名探偵クマグスの冒険」

 

各国の人々が様々な目的から集まるロンドンで、

若き日の南方熊楠が、遭遇する奇怪な事件を

博覧強記の知識と、豪胆な行動力で解決していく。

 

実際にその時そこにいた人と、架空の人物。

あったこととあったかもしれないことをブレンドして書かれていて、

その時代についても興味が沸いてきます。

 

そうして遊学のち、南方熊楠は日本に帰国するのですが、

それからの話がこちらです。

異界

鳥飼否宇「異界」

 

1903年の春、那智勝浦で奇怪な少年が目撃されるー。

そのすぐ後に病院から乳児がさらわれ、

 南方熊楠と、その弟子が解決に乗り出します。

 

神話や狐つき、山の民。

民俗学や植物学についてや、意外な人物の登場など、

いろんなところから楽しめ、そして騙されました。 

 

夏の暑さにふっと意識が遠のくような描写や、

「世界は名前からはじまる」というところなども印象に残ります。

 

また、今年の4月18日には、南方熊楠が主人公の小説

「ヒト夜の永い夢」が発売されるそうです。

 

 

ハヤカワ文庫ですし、SF要素も入ってくるのでしょうか。

読んでみたいですね。

岡上淑子の、「フォトコラージュ 沈黙の奇跡」展に行きました。

Twitterで見かけて興味を持ち、東京都庭園美術館で行われている

岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟」展を見にいきました。

岡上淑子全作品

岡上淑子全作品

この本は、作者が在住する高知県

2018年に行われた展示「はるかな旅」の図録でもあります。

 

1950年代の、戦後まもない東京で、

こういう作品を作っていた人がいたのか、と

目が覚めるような気分になりました。

はじめて見たときの、はっと息を呑むような感覚を、覚えています。

 

はるかな旅: 岡上淑子作品集

「はるかな旅:岡上淑子作品集」

 

作るとき、わたくし、お座敷で作ったのね。座卓で座って。

障子を開けると、廊下を通して、空と雲しか見えないんです。

そういう家の作りだったのね。高台で、前にお家がなかったのよ。

いつも、作りながら空ばかり見ていました。

 

何かを見て、美しいと思うことはときどきありますが、

それには2種類あります。

植物や自然の風景、生き物へ対するものと、

鉱物や人形、作られたものの、そこで時間を止めたようもの。

このコラージュの場合は後者で、写真と写真の

思いもしないような組み合わせが、

いくつも世界を生み出していくようでした。

 

東京人 2019年 04 月号 [雑誌]

「東京人」でも、与那原恵による記事が紹介されており、

「写真たちは、時間も国も、遠近もない、この世にあり得ない

シュルレアリスムの世界へと連れ去られる。

光射す木立の前に、船倉の瓦礫の中に、豪壮な室内に、

押し寄せる大波のきわに。」というところが印象に残り、

この人が書いた本も読んでみたくなりました。

読みたい本がどんどん増えていきます。

 

4月7日までの展示なので、ちょっと残り時間は少ないのですが・・・

東京都庭園美術館自体も、また素敵なところでした。

紅葉もきれいだそうなので、今度は秋に行ってみたいですね~。

ヒグチユウコ「CIRCUS」展に行きました。~糸井重里「思えば、孤独は美しい。」についても。

絵画や彫刻、切り絵など、

細部までできあがっている作品を見てうっとりするような、

自然と笑顔になるような気持ちをなんと呼ぶのでしょう。

陶酔、というものなのかはわかりませんが、

この人の作品を見ていると、そんな気持ちになります

ヒグチユウコ画集 CIRCUS

ヒグチユウコの20年にわたる活動を紹介する、

大規模展覧会「CIRCUS」は、世田谷文学館で3月31日まで行われ、

そのあと兵庫、広島、静岡、高知・・・と、各地を巡回する予定です。

くわしいスケジュールはこちらからどうぞ↓

higuchiyuko-circus.jp こちらの記事でも少し紹介しましたが、

ワニとネコ、タコやウサギ、キノコに魚、

太古から生息する植物の一種ひとつめちゃん、

「きみはネコなの? ヘビなの? タコなの?」と聞かれる

ギュスターヴくん・・・

かわいくもちょっと怖い、不思議な生きものを堪能しました。 

カカオカー・レーシング Imai Masayo Artworks ギュスターヴくん (MOEのえほん)

カカオカー・レーシング TOBICHIグランプリ! - ほぼ日刊イトイ新聞

ギュスターヴくん|白泉社ブックス

 

様々なサイズの原画やポスターが展示された空間には、 

小さなのぞき穴や抜け穴があったり、

壁にメッセージが書かれていたりして、あまりに楽しいからか

3月9日からの入場は日時指定の前売券が必要になっていました・・・。

行かれる方はお気をつけください。

 

ヒグチユウコの絵は、この本にも使われています。

思えば、孤独は美しい。

糸井重里「思えば、孤独は美しい。 」

 

糸井重里が1年に書いたすべての原稿とツイートから、

こころに残ることばを集めて1年に1冊編む本

「小さいことば」シリーズの、2007年から数えて11冊目の本です。

楽しい言葉も、ふっとさびしくなるような言葉も、

 2017年がぎゅっとつまっているようで、

なんというか、悲しいこともうれしいことも、

何もかもが続いていくのだなあと思いました。

夢についての本を読みました。 ~久住昌之「夢蔵―Dream Collection」、川田絢音「空中楼閣 夢のノート」

長崎駅に図書館が隣接していました。

ルビーは時間がたてばオパールになるものでした。

6本足の猫のような生き物と並んで歩いていました。

これらは私の見た夢に出てきたものですが、

夢の中では何が出てきても不思議には思わないことがほとんどです。

行ったことのない長崎駅から最寄りの図書館までは

1キロくらい離れているようですし。

 

そんな夢の一部を、客観視できるようにしたのがこちらです。

 久住昌之_夢蔵

 久住昌之「夢蔵―Dream Collection

 

眠った脳の未知なる世界を「作品」化し、

いまだ解明されることのない「夢」の神秘に迫る前代未聞の試み

 として、誰かが見た夢の中に出てきたものを、

作者がイラストにした本です。

人の夢の話はつまらない、という話はよく聞きますが

絵として書かれると、こんな発想はなかったとおもしろく感じました。

 

http://shoshiyamada.jp/gif/199106248.jpg

川田絢音「空中楼閣 夢のノート」

 

どれもほんの数行、ものによっては一文で終わる詩集です。

文と文の間の空白や、映像にはできない言葉の使い方が

不穏で、静かで、部分的にくっきりしていて、

自分でもこんな夢をみたような気分になりました。

 

くり返し、何か崩れていく。「こんなふうに崩れるのだ」と納得している

実感だけがあって、見えるものもない。具体的な手ざわりは流れ去って

消えてしまっている。(崩れる)

 

大分後で、吉田悠軌の「一行怪談」を読み、

共通する雰囲気があると思いました。とはいえこの本の作品は、

詩ではなく物語である。

物語の中でも怪談に近い。

と定義されているのでまた違うものなのですが。

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