唐桃の読んだもの。

読んできた本や漫画を、徒然に紹介していきます。

写実画・細密画について書かれた本を読みました。~月刊美術編集部「写実画のすごい世界」、宮部みゆき「ステップファザー・ステップ」

写真のようにリアルな作品を、絵画という形で見せる。

それが写実画です。

 

写実画のすごい世界

 

とはいえ、定義は様々あるようで

写実絵画を専門に収集している、ホキ美術館のHPによれば

 

「写実絵画とは物がそこに在る(存在する)ということを描くことを通して

しっかり確かめようとすること。物が存在するということのすべてを

二次元の世界に描き切ろうという、

一種無謀ともみえる絵画創造のあり方。

物がそこに在るということを見える通りに、触れる通りに、

聞こえる通りに、匂う通りに、味のする通りに描ききろうとする試み」

という言葉が紹介されていました。

 

本物と見紛うほどの絵を描ききる、というのは

何もかもを意識して描かなければいけない、ということだと思います。

たとえばカメラなら、何も考えずにシャッターを押しても

そこにあるものが全て写った写真になりますが、

絵の場合だと、モデルの着ている服の柄や床の木目、

ほつれた髪の一本一本、目の潤みや光の反射など、

すべてに作者の意志が働きます。

写真ではなく、絵であること。

抽象的ではなく、どこまでも具体的に描くこと。

写実画のよさはそこにあるのではないかと思いました。

 

また細かく描かれた絵、ということで、

この本を思い出しました。

ステップファザー・ステップ (講談社文庫)

主人公「俺」と、双子のきょうだい直と哲。ひょんなことから「俺」は、

二人の父親になりすまさなければいけなくなった・・・

という短篇連作集なのですが、

細密絵画が出てくるのはこの2話目、「トラベル・トラベラー」です。

 

舞台は群馬と栃木の県境にある暮志木町。

そこの美術館の所蔵品には、16世紀の画家、セバスチャンの作品

「陽光の下の狂気」がおいてあるのですが、

それが大変な細密画なのです。

もちろん、作品そのものが載っているわけではないので、

描写による想像しかできないのですけど。

 

素直に言おう。俺の見るかぎり、セバスチャンは偏執狂である。

いやあ、細かい細かい。本当に狂気の人間でなければ、

あんな平凡な風景をあそこまで密に描きこめるものじゃない。

説明用のパンフレットによると、彼は自分の眉毛を抜いてつくった

筆を使っていたそうだが、実際、かなり危険な人物だったのだろう

 

架空紙幣やジオラマ、ミニチュア、食品サンプル

どこまでも細密に、人の手によって作られたものには

時に震えるくらいの魅力が宿ります。

 

 自分で作ろうというところには至らないけれど

 せめて、たくさん知って、たくさん見ておきたいと思いました。