唐桃の読んだもの。

読んできた本や漫画を、徒然に紹介していきます。

たぬきの話~森見登美彦「聖なる怠け者の冒険」、北野勇作「納戸のスナイパー」、東雅夫編「佐藤春夫怪異小品集 たそがれの人間」

ちょっと前にもTwitterでたぬきの話がわっと盛り上がりました。

実際に近くで見たことはないけれど、場所によっては身近な生き物なのだろうな~、

と思います。それこそ、カラスのような存在なのかしら。

今日はそんな、たぬきが出てくる本を紹介します。

森見登美彦「聖なる怠け者の冒険」

「何もしない、動かない」ことをモットーとする社会人2年目の小和田君。

ある朝目覚めると小学校の校庭に縛られていて、隣には狸の仮面をかぶった

「ぽんぽこ仮面」なる怪人がいる。しかも、そのぽんぽこ仮面から「跡を継げ」

と言われるのだが……

ここから小和田君の果てしなく長く、奇想天外な一日がはじまる。

 

もともとフジモトマサルが好きだったので、挿絵集がまた楽しい本でした。

1枚1枚のイラストに、2人のコメントがついているんです。

作者も考えていなかったようなことを、イラストで形にするすごさを知りました。

他の人が書いていたら、また全然違う雰囲気になっていたんじゃないかと思います。

 

この物語の大まかな主人公は小和田君なのですが、

語り手がすいっと物語の中に顔を出し、登場人物の行動を応援する。

真の主人公は京都、ともいえるかもしれません。

それとも「狸の化けた偽京都」でしょうか・・・

dot.asahi.com

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北野勇作「納戸のスナイパー」

「あの人も狸じゃなかろうか?」
”読み始めたら、化かされる”  
100文字が紡ぎ出す人と人でないものの境界線。

 

「ほぼ100字小説」として、作者がTwitterにあげたものから

狸的リアリティで書かれたもの200編が収録されています。

月の数が増えたり、宇宙ステーションに化けていたり、花嫁行列がきつねだったり。

100文字なので、どこからでも読める文字通りの掌編小説です。

そして作者のnoteでは、全作が解説されていて充実しています。

東雅夫編「佐藤春夫怪異小品集 たそがれの人間」

 

与謝野晶子泉鏡花芥川龍之介谷崎潤一郎稲垣足穂まで、

作家が親交を結んだ先達、僚友、門人たちが作中に妖しく見え隠れして—。

近代日本の怪奇幻想文学史を彩る文豪たちが神出鬼没、朦朧として不安定、

虚実ないまぜの物語が続々と展開される。

大正から昭和期の探偵小説や幻想文学、怪談文芸を先導した文壇の巨人・佐藤春夫。本書は、その知られざる本領を初めて集大成した画期的アンソロジーである。

 

佐藤春夫を、私は詩歌で知りましたが、怪奇の人でもあったのか~、

と楽しくページをめくりました。

狸が出て来るのは、この中の「私の父が狸と格闘をした話」。

自転車がまだ珍しいものだったころ、

語り手の父親は医者だったので、患者のところに行くときに自転車を使っていました。

ある朝学校に行くと、年上の子からおまえのお父さんは昨日怪我をしてただろう、

と言われ・・・

新耳袋のような実録怪談の雰囲気のある話です。