現代社会でのミステリ小説も好きですが、
特有の背景をもつものも、また違うおもしろさがあると思います。
その時代や、場所だからできるトリックがあったり、
価値観や決着のつけかたが違っていたり。
なので、今回は江戸時代が舞台のミステリーを紹介します。
宮部みゆきの「初ものがたり」。
ここの舞台は、主に本所深川。
地下鉄でいうと、清澄白川から門前仲町あたりのようです。
そのあたりをまかされている回向院の旦那こと、
岡っ引きの茂七が子分たちと事件に取り組んでいきます。
柿、白魚、鰹・・・「初物」がからんだ謎を調べていく過程には、
ほんのりあたたかい感情の交流がある一方で、
事件が解決しても、それだけですっきり終わらずに
静かな余韻が残ります。
宮部みゆきが江戸時代の小説を書くときに読んでいるというのが
岡本綺堂の「半七捕物帳」。
明治時代の新聞記者である語り手の「私」が、
江戸時代の岡っ引きであった半七老人に
それまで解決してきた事件の話を聞く、
というのが大枠になっています。
2人の解説もあって、より深く楽しむことができます。
事件や、そこにつかわれる仕掛けはもちろん、
描写される江戸の風物や情景が素敵です。
今とつながっていることなのだけど、
遠い世界を垣間見るような気持ちになります。
昔の事件に関わった人物が、
その顛末を若者に語ってきかせるという形には、
本当に今更ですけど、
岡本綺堂っておもしろい小説を書いていたんですね・・・
他の話も読んでみたくなりました。
そして岡本綺堂を愛読する小説家はたくさんいるようですが、
こちらのシリーズも、そのひとつ。
都筑道夫の「なめくじ長屋捕物さわぎ」です。
場所は神田の橋本町。
日銭を稼ぐ大道芸人は、雨が降ったら稼げないので、
天気が悪いと朝から晩までなめくじみたいにのたのたしている。
だから、住んでいる場所もなめくじ長屋と呼ばれるようになった。
そんな彼らが、謝礼目当てに数々の事件と関わっていきます。
会話には明治の東京語をできるだけ使い、
アリバイを有場居、アイディアを編出案など
外来語には漢字を当てていて、また独特の雰囲気。
本格的な謎解きもあり、意表をつく終わりあり・・・
いろんな話が楽しめます。