唐桃の読んだもの。

読んできた本や漫画を、徒然に紹介していきます。

作家が食べるごはんについての本を読みました。~いしいしんじ「いしいしんじのごはん日記」、東直子「千年ごはん」、オカヤイヅミ「おあとがよろしいようで」

いしいしんじのごはん日記 (新潮文庫)

www.mao55.net

いしいしんじのごはん日記

いしいしんじごはん日記2 三崎日和

 いしいしんじごはん日記3 アルプスと猫

京都ごはん日記

京都ごはん日記2 ある一年 

 

浅草から三崎、松本、京都で。

住む場所を移動しながら送る日々と、

仕事や回りの人々、食べているものなどの日記です。

偶然の再会があり、新しく始まることがあり、

時折さわぐ幻のねこたちがいて、と

延々と続く、たゆたうような流れを感じる本でした。

 

千年ごはん (-)

東直子「千年ごはん」

「今日のビタミン短歌添え」では、ごはんのエッセイと短歌を。

「つらつらごはん日記」では、日常の一皿を。

読んだときにのどが痛かったこともあり、

風邪をひいたときに煎じる柚子茶がひときわおいしそうでした。

たぶん、これ↓

www.yokabai-shimabara.com

おあとがよろしいようで

オカヤイヅミ「おあとがよろしいようで」

 

(死ぬのがすごく怖いから、)

あんまり怖すぎると本当に死ぬとき困るので、

好きな食べ物のことと併せて考えたら

怖いのちょっとやわらぐかなと思いまして。

 

 

作者は、小説家が最後に食べたいごはんを

一緒に食べながら話します。

死ぬならどんな死にかたがいいか。

最後に聞くならどんな音楽がいいか。

 自分のいない世界を。大変なことがおこった世界を。

 

死ぬことについて話しているのに、

不思議と生きることについて話しているようでした。

それは考えたことがなかった。それは少しわかる気がする。

対談とはまた違った、漫画で見る会話がとても楽しかったです。

Q&Aの本を、読みました。~みうらじゅん「大人に質問!『大人ってどのくらい大変なんですか?』」、田中未知「質問」、恩田陸「Q&A」

結局、大人といっても子供の成れの果て。

「なんで?」と聞かれてもうまく答えられないことだってある。

考えに考えた答えを言った時、大概子どもは聞いていない。

次の「なんで?」を言いたいだけだから。

でも、これだけは言っとくよ。

心理はあっても人生に正解などないってことは。

ま、それでも聞いてくれないだろうけど。

 

大人に質問!「大人ってどのくらい大変なんですか?」

みうらじゅん「大人に質問! 『大人ってどのくらい大変なんですか?』」

 

5歳から16歳の、子どもたちの質問に答えるみうらじゅん

真面目な遊び方というのか、いなし方というのか、

そういうものを教えてくれます。

「なんで人は生きてるの?」

「死んだらどうなると思いますか?」など、まるで哲学。

そして、「人生楽しいですか?」に対しての

「楽しくなくてもがんばって楽しそうにしていること、それが努力です」

に大人力を感じました。

自分の機嫌は自分でとるのが、大人ですよね。

 

 

質問

田中未知「質問」

 

Q&Aの、Qだけで構成された本です。

365のQ、質問はたとえば

 

自分の名前に満足していますか

Are you satusfued with your own name?

 であったり、

三分間で何人にさよならが言えますか

How many persons can you say good-bye to in 3 minute?

であったりと、想像力を刺激されます。

著者は、劇作家の寺山修司の秘書として、マネージャーとして、

公私に渡るパートナーとして、16年間仕事をしていた人だそうです。

 このあたり、もっと本など読んでみたいですね。

 

そしてすごい記事をみつけました~

tobosha111.hatenablog.com

 

Q&A

恩田陸「Q&A」

 

2002年2月11日午後2時過ぎ、

都内郊外の大型商業施設において重大死傷事故発生。

死者69名、負傷者116名。

未だ事故原因を特定できずー。

 

理解できるから怖いものと、

理解できないから怖いものがあります。

 犬が怖いのは噛まれたときの痛さを想像するから。

人面犬が怖いのは、何なのかわからないから。

この小説の怖さは、理解できる怖さ。

医者と患者、タクシーの運転手と客、友人どうし・・・

質問と答えだけで、その日にその場所で何が起こったのか

じわりと浮き上がる。

 

質問する方だってロボットじゃないんです。

だから質問と答えが対話になっていったり、

質問する方が追い詰められたりします。

回答する人も、特別な個性を持っているわけではない、

「普通の人」であるから、

その世界に生きてるんだという感じがしました。

こういうことが、どこで起こってもおかしくないのだと。

  

あれだけの人間が亡くなって、しかも元の原因がちっともわからない。

なのに、みんな、あっという間に忘れた。というか、忘れようとしている。

理解できないものについては、あまり考えたくないんでしょう。

 

ところには、今に通じるものを感じてぞっとしました。

平塚、新横浜、鎌倉。神奈川県が舞台の本を読みました。

 

ライオンの棲む街  平塚おんな探偵の事件簿1 (祥伝社文庫)

東川篤哉「ライオンの棲む街 平塚おんな探偵の事件簿」

(試し読みあります)

東京の会社を辞め、地元平塚にUターンしてきた川島美伽と、

ライオンのあだ名を持つ友人、生野エルザ。

元同級生の二人は、息が合っていたりズレていたり・・・・・・

お互いに振り回したり振り回されたりしながら

湘南の片隅で起こる事件に挑みます。

 

湘南ひらつか七夕まつりや老郷(ラオシャン)の酢タンメン、

駅ビルのラスカなど、描写されているところは実際にあるようなので、

平塚に住んでいる人ならピンとくるのではないでしょうか。

 

そんな愉快なコンビが、新横浜にも現れました。

吸血鬼すぐ死ぬ(1)(少年チャンピオン・コミックス)

盆ノ木至「吸血鬼すぐ死ぬ」

吸血鬼が人間と共存したり混乱させたりしている世界の新横浜で、

吸血鬼ハンター・ロナルドと、

ひょんなことからコンビを組むことになった吸血鬼のドラルク

 

基本的には一話完結のコメディなので読みやすいです。

ここでの「吸血鬼」は「動物」と同じくらいの幅広いくくりなので、

人間に近かったり動物や道具がなったりと、

いろんな吸血鬼が登場します。

2019年8月末から、作者の体調不良で休載が続いていますが・・・

復活を待っています。

 

人とそうではないものが共存している、といえば

西岸良平の「鎌倉ものがたりもそうですね。

鎌倉ものがたり : 1 (アクションコミックス)

鎌倉には、明治時代以降から多くの文学者が訪れていたそうで、

鎌倉文学館のHPによれば、ゆかりの人物は300人を越えているとか。

そんな鎌倉を舞台にしたこの漫画は、ファンタジーをベースに

 ミステリー、SF、恋愛と

いろんな要素が入った話が楽しめます。

www.futabasha.co.jp

紙から作られるものの本を読みました。~チャルカ「アジ紙」、原デザイン研究所「SUBTLE」、辰巳雄基「箸袋でジャパニーズ・チップ!」

大阪に旅行するなら、行ってみたいと思っているお店があります。

それがこちらの、チャルカ

オリジナルの文房具と、東欧の雑貨などを販売しています。

 

アジ紙―東欧を旅する雑貨店チャルカの、好きで好きで仕方のない紙のはなし

チャルカ「アジ紙ー東欧を旅する雑貨店チャルカの、

好きで好きで仕方のない紙のはなし。」

 

アジ紙とは、味のある紙のこと。

白くてつるつるして新しい紙の真逆を行く、年期を感じさせる紙。

倉庫の奥に眠っていた紙、紙ナプキン、ワラ半紙、

パンの包み紙・・・

「紙と製本が好きでたまらない」雑貨ハンターが

チェコでみつけた紙ものは1つ1つが特別で、

製本職人ヤナタさんの作るノートについての文章は

一編の小説になりそうです。

 

この本がおもしろかったので、

他にも紙製品について書かれた本を紹介します。

 

SUBTLE―サトル かすかな、ほんのわずかの The 47th TAKEO PAPER SHOW

原デザイン研究所「SUBTLE」

竹尾ペーパーショウという、紙関連業界の展示会のカタログで、

紙の可能性について教えてくれる本です。

subtle.takeopapershow.com

上記の特設サイトにも紹介されていますが、

知っているはずの紙が見せる姿は輝いているようでした。

 

本文の中では、「紙に書くという行為で大切なのは、

書いたものを見ることで考えが変わったり、

紙と対話したりすることにあると思うんです。

ただの記録媒体ではなくて、自分の内側を一旦出して、

自分の声を外から聞くようなプロセス。」とあったのが印象的でした。

 

 

ほとばしる紙、したためる紙、かたどる紙、透かす紙、手触りを作る紙、と

紙にできることは、うんと広いのだなあ・・・と、圧倒されます。

 

箸袋でジャパニーズ・チップ!  テーブルのうえで見つけたいろんな形

辰巳雄基「箸袋でジャパニーズ・チップ!

テーブルのうえで見つけたいろんな形」

greenz.jp

2016-2017年に、著者が日本全国を巡って集めた

通称「ジャパニーズ・チップ」。

レストランや食堂などで出てくる箸やストローの袋を、

折ったり丸めたりしてそのまま席に残されるあれのことです。

箸置き、舟、星、人、ハート、エビフライ、

犬のようななにか、鳥のようななにか、よくわからない何か。

 

折り紙やトランプなど、誰かに教えられてはじめて知るものが

こんなところにもあったのだと思いました。

文字を書くことについての本を読みました。~新保信長「字が汚い!」、酒井順子「字を書く女 中年書道再入門」、井原奈津子「美しい日本のくせ字」

 大きさが整わない、書いているうちに中心がずれていく、

線がまっすぐ引けない。

自分がそうなので、字をきれいに素早く書ける人には憧れます。

 

しかし世の中には、綺麗ではないけど味のある、

真似したくなるような文字もあり、

手書きの文字がその人の個性を表していることも多くあります。

ちょっと気になっていたので、

今日は文字を書くことについての本を紹介します。

 

字が汚い! 

新保信長「字が汚い!」

books.bunshun.jp

ペン字の練習帳や本を試し、ペン字教室で指導を受ける。

作家や政治家、野球選手の文字を検証。

いろんな人とのインタビューを通して、

味のある、「いい感じの」文字をめざしていく本です。

各章の扉に、著者の書き文字が載っているのですが、

文字が変化していくのがはっきりわかります。

文字の基本、というのか元祖というのか、

ペンよりもずっと長いこと使われているわけだから

伝統があるというのか、

 とにかく書道についての本では、こちらがおもしろかったです。

字を書く女 中年書道再入門

酒井順子「字を書く女 中年書道再入門」

 

年賀状や手書きの原稿など、文字をテーマにしたエッセイと、

2年間にわたる書道の稽古の様子。

行書、草書、臨書、漢字かな交じり文と、

名のある人の文字を見て、教わり、自分でも書いていきます。

教えるのは、大東文化大学の河内君平先生。

done-labo.com対談で、作者がこの先生に

「書で人間性や人格って分かるんですか?」と聞いて、

人間性はよくわからない、だけど教養は出るんです。

と答えていたのが印象に残りました。

 

活字やフォントでも、印象に残る使い方をしていたり

オリジナルのフォントを作っている人はいるけれど、

使い方によって個性が現れるのかもしれません。

 ◇

そんなフォントとは正反対のところにある、

くせ字についての本がこちらです。

美しい日本のくせ字

井原奈津子「美しい日本のくせ字」

 

芸術家・岡本太郎が、著書で

「『美しい』は『きれい』とは全く違う」と言っていますが、

私も「美しい」という言葉を、きれいに整ったという意味ではなく、

そのものからなにかを感じて心に響くこととして使いたいと思います。

そんな美しい、くせ字の数々をぜひご覧ください。

 

ここで紹介されている文字は、著者が集めた文字。

松本人志がTV番組でフリップに書いた文字、

映画の字幕に使われていた文字、

道に落ちていたノートの文字、書道家の文字、

アートのような文字、韓流アイドルの書く文字、

新聞記者が取材で書くメモ・・・

書いた誰か、その時の時間を感じます。

 

自分の顔がその人だけのものであるように、

自分が書く字もその人だけのものなんだな、と思いました。

日々のごはんについて。~はらぺこ編集部・編「漫画家ごはん日誌」、西加奈子「ごはんぐるり」、オカヤイヅミ「すきまめし」

最近の暑さには、命の危険を感じるこのごろ。

水分と塩分の補給や直射日光の回避、

倒れる前に予防したいですね。

それには食事も大切、ということで

今日は日々のご飯について紹介します。

 

漫画家ごはん日誌 (フィールコミックス)

「漫画家ごはん日誌」

konomanga.jp

作ってもらったもの、自分で作るもの。

冷凍しておくおにぎり、趣味で育てている野菜、

郷土料理に、昔からの好物。あるいは食材。

そういうものが、1人の漫画家につき1頁で紹介されています。

(リレーコミックとありました)

巻末のインタビューの言葉を借りれば、「人生に寄り添う」食べ物。

 

思い出や普段の食卓を描くほかにも、

レシピを載せていたり、本を紹介していたり、

紹介のしかたは様々で、飽きることがありません。

 

たとえばお茶椀によそったご飯でも、

人によって書き方がずいぶん違っていて

作品を知っている人でも、知らない人でも

この人はこういうものを食べてきたんだなあ、と思いました。

 

料理が好きでなくても、食べることは、誰しも無関係ではいられません。

だから、何をどんな風に食べるかというのは、

その人の価値観や人間関係、

つまりその人自身を表しているのだと思いました。

 

ごはんぐるり

西加奈子「ごはんぐるり」

小説「奴」も収められた、食べ物エッセイです。

エジプトで母親が作ってくれた日本料理

・・・からの、不自由さとおいしさ。

セネガルでの料理・・・を教わるときに感じる、生活のリズム。

店で頼む料理の「正解」・・・からの、キュートないびつさ。

読んでいる間、

知っているはずの料理を別のもののように感じていました。

 

すきまめし (EDEN)

オカヤイヅミ「すきまめし」

 

ひとりぐらしで在宅仕事。

いつ何を食べてもいいし、食べなくてもいい。

気のむくままに、いろいろ作る。

ちょっとしたすきまに作るレシピと、日常が楽しいマンガです。

漬けていたピクルスがだめになってがっかりしたり

(そしてまた、ビンを洗って漬けなおす)、

甘いものを食べたらしょっぱいものを食べたくなって

コンビニを往復したり。

日常に根ざしているというか、日常そのものが描かれています。

カラスが出てくる本を読みました。~松原始「カラスの教科書」、宮崎学「カラスのお宅拝見!」、三浦しをん「あの家に暮らす四人の女」

カラスが道にクルミを落として、車にひかせるのを見たことがあります。

実際に見ていると、アレはなかなか難しいようです。

 

カラスが道路にクルミを落として、近くの電柱に止まる

→しばらく待つ

→やってきた車が、クルミをふまずに通りすぎる

→電柱から飛んだカラスが、クルミをくわえて飛び上がる

→最初に戻る

という過程を10回以上繰り返していたので、

ようやくクルミが割れた時には、

離れたところから見ていた私も拍手したくなりました。

 

それが頭に残っていたからか、 この本に書かれていた

カラスのクルミ割りについても印象に残りました。

 

カラスの教科書 (講談社文庫)

松原始「カラスの教科書」

 

この本では、カラスの一生や生活のようす、

カラス同士の社会や人間社会との関わり、

神話や物語に登場するカラスや、うまくつきあう方法など、

様々な角度からカラスを書いています。

そのへんにいる鳥、というものではなく

社会の一部として存在するカラスという鳥について

親しみがもてるようになりました。

 

著者を知ったのは、デイリーポータルZの記事です。

dailyportalz.jp

 

カラスの中でも、こちらは巣に特化しています。

カラスのお宅拝見! (Deep Nature Photo Book)

宮崎学「カラスのお宅拝見!」 

 

北海道から沖縄まで、場所は日本全国。

各地に作られたカラスの巣を、木登りでのぞいて回った写真集です。

 

木の枝や草、動物の毛や布団の綿、

針金、ハンガー、ビニール紐と、使えるものは何でも使っていて、

くちばし一つで器用に作るものだと思いました。

 巣によって色や模様が違う卵から生まれたばかりの、

羽も生えていないとりにく同然の雛が育って、

赤い口を精一杯開けている様子が生々しいです。実際に生です。

 

あの家に暮らす四人の女 (中公文庫)

そして、

三浦しをん「あの家に暮らす四人の女」

に登場するのは、カラスの善福丸です。

この善福丸、ただのカラスではありません。

人の心に入ることはできないけれど、

長い間縄張りの中で、住民を観察してきたカラスであり

吾輩は猫である」の猫のように、この家の回りで起こる出来事を

昔から眺めている存在でもあります。

 

刺繍作家の佐知と気ままな母鶴代、

佐知の友人雪乃と多恵美。

4人の女が暮らす、杉並の古びた洋館での日々。

人生のままならなさも、寂しさや楽しさも感じさせてくれます。