唐桃の読んだもの。

読んできた本や漫画を、徒然に紹介していきます。

夢についての本を読みました。 ~久住昌之「夢蔵―Dream Collection」、川田絢音「空中楼閣 夢のノート」

長崎駅に図書館が隣接していました。

ルビーは時間がたてばオパールになるものでした。

6本足の猫のような生き物と並んで歩いていました。

これらは私の見た夢に出てきたものですが、

夢の中では何が出てきても不思議には思わないことがほとんどです。

行ったことのない長崎駅から最寄りの図書館までは

1キロくらい離れているようですし。

 

そんな夢の一部を、客観視できるようにしたのがこちらです。

 久住昌之_夢蔵

 久住昌之「夢蔵―Dream Collection

 

眠った脳の未知なる世界を「作品」化し、

いまだ解明されることのない「夢」の神秘に迫る前代未聞の試み

 として、誰かが見た夢の中に出てきたものを、

作者がイラストにした本です。

人の夢の話はつまらない、という話はよく聞きますが

絵として書かれると、こんな発想はなかったとおもしろく感じました。

 

http://shoshiyamada.jp/gif/199106248.jpg

川田絢音「空中楼閣 夢のノート」

 

どれもほんの数行、ものによっては一文で終わる詩集です。

文と文の間の空白や、映像にはできない言葉の使い方が

不穏で、静かで、部分的にくっきりしていて、

自分でもこんな夢をみたような気分になりました。

 

くり返し、何か崩れていく。「こんなふうに崩れるのだ」と納得している

実感だけがあって、見えるものもない。具体的な手ざわりは流れ去って

消えてしまっている。(崩れる)

 

大分後で、吉田悠軌の「一行怪談」を読み、

共通する雰囲気があると思いました。とはいえこの本の作品は、

詩ではなく物語である。

物語の中でも怪談に近い。

と定義されているのでまた違うものなのですが。

www.php.co.jp

フィンランドについて書かれた本を読みました。~稲垣美晴「フィンランド語は猫の言葉」、森下圭子/武井義明「フィンランドのおじさんになる方法。」リトヴァ・コヴァライネン/サンニ・セッポ 「フィンランド・森の精霊と旅をする Tree People」

フィンランド語は猫の言葉 (講談社文庫)

稲垣美晴「フィンランド語は猫の言葉」

 

今から40年以上前、1970年代末のころ。

現在よりもずっと、フィンランドが遠い国であったころ。

1人の芸大生が、そこに留学した・・・。

 

私はこの本を、黒田龍之助の書いたものから知りました。

まさに「すばらしく楽しいエッセイ」にして、留学記です。

 

日本ではないから勝手が違って面倒だったり、

自分1人ができなかったりすることの悲しさも書いているけれど、

劣等感におぼれずに楽しいことをたくさん感じているところに

著者の強さを感じました。

 

ここで私は近藤聡乃の「ニューヨークで考え中」にも

そんな描写があったことを思い出し、本棚から抜きだしました。

ニューヨークで考え中(2)

ニューヨークでの暮らしは水に合っていて、

楽しいことの方がずっと多かったけれど、

自分が少数派であることで辛いことがあると

日本のマイノリティーにも思いを馳せる・・・というところに、

通り過ぎることと生活していくことは

また違うのだよな、とも思いました。

 

 フィンランドで生活している人を紹介しているのが

ほぼ日刊イトイ新聞 - フィンランドのおじさんになる方法。

です。

フィンランドのおじさんになる方法。

 

著者の1人、森下圭子は

ムーミントーベ・ヤンソンについて研究しており、

ムーミンの公式サイトでもブログを書いています。

www.moomin.co.jp

この本で紹介されるのは、

フィンランドでごくごく普通に生きている、11人のおじさん。

アコーディオン楽団のエーリクさん、きこりのレオさん、

白樺の皮を使って工芸を行うエイノさん・・・

フィンランドでの「きこり」は、

全員が森林管理局に属する公務員なんだそうです。

 

いろんなものを作っていくことや、

冬の暮らしについてインタビューをしたり、

薪割りやサウナを体験したりと、

間接的にでも知ることで、そこで生きている人に近づける気がします。

 

そしてフィンランドの美しい森については、こちらを。

フィンランド・森の精霊と旅をする - Tree People (トゥリー・ピープル) - 

リトヴァ・コヴァライネン、サンニ・セッポ

「フィンランド・森の精霊と旅をする Tree People」

 

著者である2人の写真家が、15年にわたりフィンランドの古い木々と、

その歴史を訪ねていく写真集。

日本の山とは色合いから違い、

ひんやりとした静かな空気が漂ってくるようでした。

写真について説明する本を読みました。~大竹昭子編「この写真がすごい」、赤瀬川原平「鵜の目鷹の目」

この写真がすごい2008この写真がすごい2

大竹昭子「この写真がすごい」

 プロの写真家もアマチュアも、発表された媒体も関係なく選ばれた

「ちょっと気になる」写真。

ただきれいだけじゃない、繰り返し見たくなる、どこか不思議な写真。

そのどこに惹かれるのか、編者が短い文章にしています。

 

この本が作られるまでの詳しい経緯や、具体的な写真は、

ほぼ日刊イトイ新聞」の記事にも書かれており、

見ている方の視界さえ変える写真というものについて

考えずにはいられませんでした。

 

www.1101.comあ

 まず写真を見て、文章を読む。

そうして、自分が見ていたようで見ていなかった、

目に写しているだけだったものに気づく。

そしてまた写真を見たとき、印象は変わっている。

そういう詳しさを、もっとつきつめたものがこの本です。

 

鵜の目鷹の目

赤瀬川原平「鵜の目鷹の目」

 

世の中で何が面白いといって、

言葉の届かないものがいちばん面白いのだ。

 

写真に写っているものを、よくみる。

よくよく見る。鵜の目鷹の目で観る。

 

たとえば、「木村伊兵衛写真全集」からの一枚。

昭和22年11月16日に、銀座で撮られた写真を見る。

街角で男が2人話しているようなのだけど、

その服装を見る。2人の関係を想像する。

どんな会話をしているのか妄想する。

ここは銀座のどこなのか考える。

映画のポスターに描かれた俳優を見る。小さく写ったガラス瓶を見る。

ちょっとふくらんだ、あれはコーラの瓶?

これは名作と呼ばれる白黒写真を、うのめたかのめで見つめ

おもしろさを発見していく本です。

島についての本を読みました(国内編)。~菅野彰「雨が降っても、生ビール」、赤瀬川原平「島の時間 九州・沖縄 旅の始まり」、岩合光昭「島の猫」

そもそも日本全体が島国であるわけですが、

そのなかでも当然大きさの違いはあり、それぞれの特色もあります。

場所によっては外国よりも遠い、国内の島。

今日は島について、書かれた本を紹介します。

雨が降っても、生ビール

 菅野彰「雨が降っても、生ビール」

 

6000人の人が住む、鹿児島の与論島

ここでは毎年、島をぐるりと走るフルマラソン

ヨロンマラソンが行われます。

「どんな時でも喉が渇いたら「生ビール!」と右手を挙げて来た」

筆者が、ビールより水が飲みたいと思った日のことを中心に

走ることについて書かれています。

 

それこそ村上春樹のように、

日常的に走っている人も少なからずいるわけですが、

特別走りたいと思わない人が、フルマラソンを走るということは

急にネガティブになったり、

自分の体や能力を実感したり、

 格好だけやる気で実力が伴わないのが恥ずかしかったりという

自意識と客観性の戦いでもあると思いました。

 

どうにかこうにか走りきった後の気持ちや、

自分に必要だったのか? ということについても触れていて、

また読み返したくなる本でした。

 

島の時間―九州・沖縄 謎の始まり (平凡社ライブラリー)

赤瀬川原平「島の時間 九州・沖縄 旅の始まり」

 

韓国に一番近い島──対馬

西方浄土の島──西表島

日本最西端の島──与那国島 のように、

それぞれの島の時間や、自分のルーツに触れる旅のエッセイ。

北の島ならまた違うのだろうけれど、

九州・沖縄の、南の島は

時間がゆったりと流れているような気がしました。

 

岩合光昭 島の猫

そして、島には猫がよく似合います。

岩合光昭の「島の猫」では、のびやかな猫と、

それを許す島の様子が感じられました。

猫が出てくる怪談を読みました。~ポー「黒猫/モルグ街の殺人」、黒木あるじ・我妻俊樹他「猫怪談」、TONO「猫で語る怪異」

ほとんど音も立てずに動く。すばやい。

思わぬところから出てくる。

人の近くにいるのに、人とは違うものを見ているような気がする。

だから、猫はホラー作品とも相性がいいのだと思います。

 

私にとってのそのはじまりは、やはりポーの黒猫でしょうか。

黒猫/モルグ街の殺人 (光文社古典新訳文庫)

動物が好きでやさしくおとなしかった人が、

酒で変わってしまうというのは今でもありそうなことです。

 

語り手は「私は正気を失っているわけではなくー

また決して夢みているのでもない」 と言っていますが、

その語りが信用できないころもあり、

短い話ではありますが、いつまでも頭に残ります。

最後のシーンなど、かっと開いた猫の口がまざまざと見えるような

気持ちになりました。

 

そんな「黒猫」のように、いろんな猫が出てくる怪談が

黒木あるじ・我妻俊樹他の「猫怪談」です。

猫怪談 (竹書房文庫)

 あの大きな瞳で、

猫は闇の中に潜む何かを擬っと見つめているのであろう。

私たちには見えない何かを。

 

とまえがきにあるのも、また印象的。

「猫は知っている」「猫は忘れない」

「ネコノヨウナモノ」「猫はいつもいる」

の4章に収められた39話は、いろんな形で猫が登場する

猫だらけの、実話怪談です。

 

そしてこちら、TONO「猫で語る怪異」は、

作者があちこちで聞いた話をアレンジして仕上げた

擬人化ならぬ擬猫化怪談。

怖いのが苦手な人でも読めるようにと、

人間を猫に置き換えて描いている漫画なのですが、

ときどき芯からぞっとします。

猫で語る怪異 1 (HONKOWAコミックス)

かわいいから、余計に怖いっていうのもありますね。

江戸が舞台のミステリ小説を読みました。宮部みゆき「初ものがたり」、半七捕物帳傑作選「読んで、半七!」、都筑道夫「なめくじ長屋捕物さわぎ」

現代社会でのミステリ小説も好きですが、

特有の背景をもつものも、また違うおもしろさがあると思います。

その時代や、場所だからできるトリックがあったり、

価値観や決着のつけかたが違っていたり。

 

なので、今回は江戸時代が舞台のミステリーを紹介します。

<完本>初ものがたり (PHP文芸文庫)

 宮部みゆきの「初ものがたり」。

ここの舞台は、主に本所深川。

地下鉄でいうと、清澄白川から門前仲町あたりのようです。

そのあたりをまかされている回向院の旦那こと、

岡っ引きの茂七が子分たちと事件に取り組んでいきます。

柿、白魚、鰹・・・「初物」がからんだ謎を調べていく過程には、

ほんのりあたたかい感情の交流がある一方で、

事件が解決しても、それだけですっきり終わらずに

静かな余韻が残ります。

 

宮部みゆきが江戸時代の小説を書くときに読んでいるというのが

岡本綺堂の「半七捕物帳」。

 

読んで、「半七」!―半七捕物帳傑作選〈1〉 (ちくま文庫)もっと、「半七」!―半七捕物帳傑作選〈2〉 (ちくま文庫) 

明治時代の新聞記者である語り手の「私」が、

江戸時代の岡っ引きであった半七老人に

それまで解決してきた事件の話を聞く、

というのが大枠になっています。

 

 宮部みゆき北村薫が選んだ二十三篇のアンソロジーは、

2人の解説もあって、より深く楽しむことができます。

 

 事件や、そこにつかわれる仕掛けはもちろん、

描写される江戸の風物や情景が素敵です。

今とつながっていることなのだけど、

遠い世界を垣間見るような気持ちになります。

 

昔の事件に関わった人物が、

その顛末を若者に語ってきかせるという形には、

京極夏彦の「後巷説百物語」を連想しました。

本当に今更ですけど、

岡本綺堂っておもしろい小説を書いていたんですね・・・

 他の話も読んでみたくなりました。

 

そして岡本綺堂を愛読する小説家はたくさんいるようですが、

こちらのシリーズも、そのひとつ。

都筑道夫の「なめくじ長屋捕物さわぎ」です。

ちみどろ砂絵 くらやみ砂絵?なめくじ長屋捕物さわぎ(一)? (光文社文庫)

場所は神田の橋本町。

日銭を稼ぐ大道芸人は、雨が降ったら稼げないので、

天気が悪いと朝から晩までなめくじみたいにのたのたしている。

だから、住んでいる場所もなめくじ長屋と呼ばれるようになった。

 そんな彼らが、謝礼目当てに数々の事件と関わっていきます。

 

会話には明治の東京語をできるだけ使い、

アリバイを有場居、アイディアを編出案など

外来語には漢字を当てていて、また独特の雰囲気。

 

本格的な謎解きもあり、意表をつく終わりあり・・・

いろんな話が楽しめます。

wagashi asobi について書かれた本を読みました。~うめ(小沢高広/妹尾朝子)「おもたせしました。」、BMFTことばラボ「ふわとろ SIZZLE WORD 「おいしい」言葉の使い方」

東急池上線、長原駅から歩いてほど近いところにあるのが、

wagashi asobiのアトリエです。

wagashi-asobi.com

ここで売っているお菓子は、絞りこまれた2種類。

ドライフルーツの羊羹と、ハーブの落雁です。

 

羊羹も落雁も、私にとっては

出されたら食べるけど自分で買うことはないものでした。

それを自分で買いたい、この味を知らせたいと

一新させてくれたのがwagashi asobiなのですが、

このお店を教えてくれたのは、こちらです。

おもたせしました。 2 (BUNCH COMICS) 

www.comicbunch.comサイトで、3話まで読めます。

 

実際のお店で売られている、寅子の手土産を食べたくなり、

紹介されている本や文豪のエピソードが楽しく、

もちろん漫画としてもおもしろい。

そんな何重にもおいしい一冊です。

 

wagashi asobi の、ドライフルーツの羊羹が登場するのは

上記の2巻。

 

こちらの羊羹のコンセプト「パンに合う和菓子」なんですよ

スライスした羊羹を

バターをたっぷり塗ったバゲットにのせた日にはもう・・・

 (15話、95p)

 

とあるのですが、私もこのように食べてみて

ほんのり香るラムや、いちじくやくるみの食感に

これが本当に羊羹なの?! と、驚いてしまいました。

 

また、wagashi asobiの取り組みについては、

 たまたま読んだこの本でも紹介されています。 

ふわとろ SIZZLE WORD 「おいしい」言葉の使い方

 「ふわとろ」「もっちり」「自家製」「じゅわー」など、

おいしそうだと思わせる言葉が、シズルワード。

2003年から、継続的にこの言葉を研究している

B・M・FTが出版したこの本は、ボリュームたっぷりです。

 

「おいしい」をつくるプロの言葉や、

おいしい言葉の使い方、映画と本に出てくるおいしいものに、

シズルワードの字引。

 

「さっくり」「サクッと」「サクサク」「ざっくり」「ざくざく」

それぞれの違いなど、具体的に考えてみたことがありませんでした。

いろんな立場からの、食欲をそそる言葉があふれています。