唐桃の読んだもの。

読んできた本や漫画を、徒然に紹介していきます。

島についての本を読みました(国内編)。~菅野彰「雨が降っても、生ビール」、赤瀬川原平「島の時間 九州・沖縄 旅の始まり」、岩合光昭「島の猫」

そもそも日本全体が島国であるわけですが、

そのなかでも当然大きさの違いはあり、それぞれの特色もあります。

場所によっては外国よりも遠い、国内の島。

今日は島について、書かれた本を紹介します。

雨が降っても、生ビール

 菅野彰「雨が降っても、生ビール」

 

6000人の人が住む、鹿児島の与論島

ここでは毎年、島をぐるりと走るフルマラソン

ヨロンマラソンが行われます。

「どんな時でも喉が渇いたら「生ビール!」と右手を挙げて来た」

筆者が、ビールより水が飲みたいと思った日のことを中心に

走ることについて書かれています。

 

それこそ村上春樹のように、

日常的に走っている人も少なからずいるわけですが、

特別走りたいと思わない人が、フルマラソンを走るということは

急にネガティブになったり、

自分の体や能力を実感したり、

 格好だけやる気で実力が伴わないのが恥ずかしかったりという

自意識と客観性の戦いでもあると思いました。

 

どうにかこうにか走りきった後の気持ちや、

自分に必要だったのか? ということについても触れていて、

また読み返したくなる本でした。

 

島の時間―九州・沖縄 謎の始まり (平凡社ライブラリー)

赤瀬川原平「島の時間 九州・沖縄 旅の始まり」

 

韓国に一番近い島──対馬

西方浄土の島──西表島

日本最西端の島──与那国島 のように、

それぞれの島の時間や、自分のルーツに触れる旅のエッセイ。

北の島ならまた違うのだろうけれど、

九州・沖縄の、南の島は

時間がゆったりと流れているような気がしました。

 

岩合光昭 島の猫

そして、島には猫がよく似合います。

岩合光昭の「島の猫」では、のびやかな猫と、

それを許す島の様子が感じられました。

猫が出てくる怪談を読みました。~ポー「黒猫/モルグ街の殺人」、黒木あるじ・我妻俊樹他「猫怪談」、TONO「猫で語る怪異」

ほとんど音も立てずに動く。すばやい。

思わぬところから出てくる。

人の近くにいるのに、人とは違うものを見ているような気がする。

だから、猫はホラー作品とも相性がいいのだと思います。

 

私にとってのそのはじまりは、やはりポーの黒猫でしょうか。

黒猫/モルグ街の殺人 (光文社古典新訳文庫)

動物が好きでやさしくおとなしかった人が、

酒で変わってしまうというのは今でもありそうなことです。

 

語り手は「私は正気を失っているわけではなくー

また決して夢みているのでもない」 と言っていますが、

その語りが信用できないころもあり、

短い話ではありますが、いつまでも頭に残ります。

最後のシーンなど、かっと開いた猫の口がまざまざと見えるような

気持ちになりました。

 

そんな「黒猫」のように、いろんな猫が出てくる怪談が

黒木あるじ・我妻俊樹他の「猫怪談」です。

猫怪談 (竹書房文庫)

 あの大きな瞳で、

猫は闇の中に潜む何かを擬っと見つめているのであろう。

私たちには見えない何かを。

 

とまえがきにあるのも、また印象的。

「猫は知っている」「猫は忘れない」

「ネコノヨウナモノ」「猫はいつもいる」

の4章に収められた39話は、いろんな形で猫が登場する

猫だらけの、実話怪談です。

 

そしてこちら、TONO「猫で語る怪異」は、

作者があちこちで聞いた話をアレンジして仕上げた

擬人化ならぬ擬猫化怪談。

怖いのが苦手な人でも読めるようにと、

人間を猫に置き換えて描いている漫画なのですが、

ときどき芯からぞっとします。

猫で語る怪異 1 (HONKOWAコミックス)

かわいいから、余計に怖いっていうのもありますね。

江戸が舞台のミステリ小説を読みました。宮部みゆき「初ものがたり」、半七捕物帳傑作選「読んで、半七!」、都筑道夫「なめくじ長屋捕物さわぎ」

現代社会でのミステリ小説も好きですが、

特有の背景をもつものも、また違うおもしろさがあると思います。

その時代や、場所だからできるトリックがあったり、

価値観や決着のつけかたが違っていたり。

 

なので、今回は江戸時代が舞台のミステリーを紹介します。

<完本>初ものがたり (PHP文芸文庫)

 宮部みゆきの「初ものがたり」。

ここの舞台は、主に本所深川。

地下鉄でいうと、清澄白川から門前仲町あたりのようです。

そのあたりをまかされている回向院の旦那こと、

岡っ引きの茂七が子分たちと事件に取り組んでいきます。

柿、白魚、鰹・・・「初物」がからんだ謎を調べていく過程には、

ほんのりあたたかい感情の交流がある一方で、

事件が解決しても、それだけですっきり終わらずに

静かな余韻が残ります。

 

宮部みゆきが江戸時代の小説を書くときに読んでいるというのが

岡本綺堂の「半七捕物帳」。

 

読んで、「半七」!―半七捕物帳傑作選〈1〉 (ちくま文庫)もっと、「半七」!―半七捕物帳傑作選〈2〉 (ちくま文庫) 

明治時代の新聞記者である語り手の「私」が、

江戸時代の岡っ引きであった半七老人に

それまで解決してきた事件の話を聞く、

というのが大枠になっています。

 

 宮部みゆき北村薫が選んだ二十三篇のアンソロジーは、

2人の解説もあって、より深く楽しむことができます。

 

 事件や、そこにつかわれる仕掛けはもちろん、

描写される江戸の風物や情景が素敵です。

今とつながっていることなのだけど、

遠い世界を垣間見るような気持ちになります。

 

昔の事件に関わった人物が、

その顛末を若者に語ってきかせるという形には、

京極夏彦の「後巷説百物語」を連想しました。

本当に今更ですけど、

岡本綺堂っておもしろい小説を書いていたんですね・・・

 他の話も読んでみたくなりました。

 

そして岡本綺堂を愛読する小説家はたくさんいるようですが、

こちらのシリーズも、そのひとつ。

都筑道夫の「なめくじ長屋捕物さわぎ」です。

ちみどろ砂絵 くらやみ砂絵?なめくじ長屋捕物さわぎ(一)? (光文社文庫)

場所は神田の橋本町。

日銭を稼ぐ大道芸人は、雨が降ったら稼げないので、

天気が悪いと朝から晩までなめくじみたいにのたのたしている。

だから、住んでいる場所もなめくじ長屋と呼ばれるようになった。

 そんな彼らが、謝礼目当てに数々の事件と関わっていきます。

 

会話には明治の東京語をできるだけ使い、

アリバイを有場居、アイディアを編出案など

外来語には漢字を当てていて、また独特の雰囲気。

 

本格的な謎解きもあり、意表をつく終わりあり・・・

いろんな話が楽しめます。

wagashi asobi について書かれた本を読みました。~うめ(小沢高広/妹尾朝子)「おもたせしました。」、BMFTことばラボ「ふわとろ SIZZLE WORD 「おいしい」言葉の使い方」

東急池上線、長原駅から歩いてほど近いところにあるのが、

wagashi asobiのアトリエです。

wagashi-asobi.com

ここで売っているお菓子は、絞りこまれた2種類。

ドライフルーツの羊羹と、ハーブの落雁です。

 

羊羹も落雁も、私にとっては

出されたら食べるけど自分で買うことはないものでした。

それを自分で買いたい、この味を知らせたいと

一新させてくれたのがwagashi asobiなのですが、

このお店を教えてくれたのは、こちらです。

おもたせしました。 2 (BUNCH COMICS) 

www.comicbunch.comサイトで、3話まで読めます。

 

実際のお店で売られている、寅子の手土産を食べたくなり、

紹介されている本や文豪のエピソードが楽しく、

もちろん漫画としてもおもしろい。

そんな何重にもおいしい一冊です。

 

wagashi asobi の、ドライフルーツの羊羹が登場するのは

上記の2巻。

 

こちらの羊羹のコンセプト「パンに合う和菓子」なんですよ

スライスした羊羹を

バターをたっぷり塗ったバゲットにのせた日にはもう・・・

 (15話、95p)

 

とあるのですが、私もこのように食べてみて

ほんのり香るラムや、いちじくやくるみの食感に

これが本当に羊羹なの?! と、驚いてしまいました。

 

また、wagashi asobiの取り組みについては、

 たまたま読んだこの本でも紹介されています。 

ふわとろ SIZZLE WORD 「おいしい」言葉の使い方

 「ふわとろ」「もっちり」「自家製」「じゅわー」など、

おいしそうだと思わせる言葉が、シズルワード。

2003年から、継続的にこの言葉を研究している

B・M・FTが出版したこの本は、ボリュームたっぷりです。

 

「おいしい」をつくるプロの言葉や、

おいしい言葉の使い方、映画と本に出てくるおいしいものに、

シズルワードの字引。

 

「さっくり」「サクッと」「サクサク」「ざっくり」「ざくざく」

それぞれの違いなど、具体的に考えてみたことがありませんでした。

いろんな立場からの、食欲をそそる言葉があふれています。

雑草について書かれた本を読みました。~吉本由美「みちくさの名前。雑草図鑑」、多田多恵子・大作晃一「美しき小さな雑草の花図鑑」

自然破壊が叫ばれているのはずいぶん前からですが、

さすがに外を歩いているとき、草の一本も目に入らないというのは

なかなか特殊な環境ではないかと思います。

とはいえ、その名前や植生を知っているかと言えばそれも微妙な話。

 

よく見るあの草、草むしりのときに抜きにくい雑草、

小さい花がかわいいあれ。

そういったところがせいぜいで、

名前を知らないものの方がずっと多いのですが、

草の名前とか、鳥の名前とか・・・

そういうことを知っていると、なんだか楽しい。

そんな楽しさを教えてくれる本が、こちら。

みちくさの名前。 雑草図鑑

関東のいろんな場所を散歩しながら、

著者が植物について教わっていく本です。

 もともと、「ほぼ日刊イトイ新聞」で連載されていたそうで、

今でも記事が見られます。

ほぼ日刊イトイ新聞 - みちくさの名前。

 

「花の名前を知ってることや、魚の名前を知っていることを、

人に知らせる機会なんか、なかなかありません。

知っていることが、知られにくいというのがいいなあと思うのです。」

 という言葉が、印象に残りました。

 

 そして、雑草の花部分に注目したのがこちら。

美しき小さな雑草の花図鑑 史上最高に美しい雑草の花図鑑。雑草はこんなにも美しい!

黄色、白、赤、青と色ごとに分けて紹介された花、

指先どころか爪の先ほどの大きさもない花が

こんなに美しいものなのか! と驚きました。

私は目に写してはいても、観察してはいなかったのだなあ。

と反省したくなりました。

葛の花の甘い匂いや、アザミの花のやわらかさととげの痛さなど、

忘れていたことがふっと意識にのぼってくるような本でした。 

単位について書かれた本を読みました。~米澤敬「はかりきれない世界の単位」、世界単位認定協会「新しい単位」

エラ・フランシス・サンダース「翻訳できない世界のことば」 の、

新刊広告からこの本を知りました。

同じシリーズになっているんですね~。

はかりきれない世界の単位

ここで紹介されているのは、

50の「近代化とともに使われなくなった、人間味あふれる」単位。

 

たとえば髭秒、は1秒間にひげがのびる長さ。

クローシャ、は古代インドで牛の鳴き声が聞こえる距離。

分、は時間にも貨幣にも使われてきたけれど、

もともとは古代中国で使われていた太さの単位で、

馬の尻尾の毛10本分・・・と、はじめて見る単位ばかりでした。

 

地域によって単位が違った時代が相当長かったことを考えると、

世界規模で単位を統一するには、

背後にいろんなことがあったのだと思わせます。

アメリカでは今でも、

フィートやインチが使われていているわけですしね。

 

 その関連では、この本がおもしろそうでした。

万物の尺度を求めて―メートル法を定めた子午線大計測

 

 また、こちらの本では、形のないものへの単位づけを行っています。

([せ]2-1)新しい単位 (ポプラ文庫)

 もともとテレビ番組の、人気コーナーだったそうで、 

ゴージャスさ、もどかしさ、怖さなど、それがどのくらいの程度なのか、

わかりづらいものへの基準を決めていきます。

器用さの基準を、漢字のしんにょうをきれいに書きこなすこと

「Sn(シンニョー)」としたり、

はかなさの基準を、お祭りですくった金魚「Kg(キンギョ)」としたり・・・

五月女ケイ子のイラストと、えもいわれぬ世界を作っています。

 

単位物語 (講談社文庫)

また、単位といえばこちらの本。

相当前に読んだので、

単位についての雑学と、それにからめた短篇小説がおもしろかった・・・

ことは覚えているけれど、具体的な話は忘れてしまったので、

また読み返そうと思います。

ユリイカ2018年10月号「図鑑の世界」を読みました。

ユリイカ 2018年10月号 特集=図鑑の世界

青土社 ||ユリイカ:ユリイカ2018年10月号 特集=図鑑の世界

 もともとこの雑誌は好きで、よく読んでいたのですが

今回は特に読み応えがありました。

 

あの図鑑ができるまでにはこういう過程があったのか、

こんな目的で作られていたのか、こんな工夫があったのか、

という発見がたくさんありました。

 

図鑑のいいところは、

ただめくっていても楽しいところなのだと思います。

ここに載っているものを見たことがある。

これはあれと似ている。

見たことがないけれど、こんなものがいるんだ。

魚、植物、鉱石、妖怪・・・

共感と驚きをもってページをめくっていくのは、

読書の楽しみでもあるのではないかと。

 

世界で一人、シャークジャーナリストとして情報を発信している

沼口麻子の「ほぼ命がけサメ図鑑」や、

詩人、小笠原鳥類の作品など、

興味深い記事がたくさん掲載されていて、

読みたい本がまた増えてしまいました。

ほぼ命がけサメ図鑑 鳥類学フィールド・ノート

 

巻末のアンケート「わたしと図鑑」には、

もし自分で1冊の図鑑を編むとすれば、

何についてのどのような図鑑にしたいか、

という質問があったのですが、

国境の図鑑、図鑑の図鑑、イカ墨の図鑑など、

回答者の好みがあふれてくるようでおもしろかったです。