唐桃の読んだもの。

読んできた本や漫画を、徒然に紹介していきます。

「MINIATURE LIFE展 ~田中達也 見立ての世界~」を見にいきました。

www.youtube.com9月23日(日)まで、日本橋高島屋

「MINIATURE LIFE展 ~田中達也 見立ての世界~」

が行われています!

上記のムービーに使われているジオラマも展示されていて、

いろんな角度から見てきました。

 

この方の作品の中では、ブロッコリーがサバンナの木になります。

ストローが竹やぶに、

粉砂糖が天の川に、

ホチキスの針が本棚に。

身近にあるものを「見立てて」違うものに見せる楽しさと工夫、

そしてTwitterで毎日作品を発表しているということも、

すごいの一言。

現物を見てもよし、パネル写真もまたよしと、

見ている間、ずっとニコニコしていました。

 MINIATURE LIFE ミニチュアライフ

作品集も出版されているので、これから読んでみるつもりです。

 

ミニチュアの展示といえば、こちらの方もすごいんです。

田中智のミニチュアコレクション (Handmade Series)

 2センチのタルトに乗ったたくさんの果物、

1.5センチ四方の箱に入った16種類のケーキ、

米粒が一つ一つ作られた卵かけごはん・・・

精密で、リアルで、おいしそう。

見ているとため息が出てしまいます。

ビールがおいしそうな本を読みました。~西澤保彦「麦酒の家の冒険」、恩田陸「酩酊混乱紀行」

ばーっと汗をかいて、熱くてのどがかわいて、

疲れているときのビールはいいですよね。

炭酸の刺激も、あの苦味もひときわおいしく感じられる。

グラスが冷えていればもっといい。

今日はそんなおいしさを実感できる本を紹介します。

 

麦酒の家の冒険 (講談社文庫)

大学の友人4人が、迷い込んだ森の中の別荘。

冷蔵庫の中には、缶ビールとジョッキがいっぱいに入っていた・・・

というところから始まるミステリー。

 

時は9月、

「熱気と湿気は、まるで濡れた毛布のようにまとわりついてくる」

ころであるだけに、今年の酷い熱さを知る身としては

彼らの疲れも、注ぎ込むビールの味もリアルに感じられます。

 

・・・嗚呼、それはいったい、何という味であっただろうか。

いや、それはもはや味というよりも、

超新星誕生というかビッグバンというか、

ひとつの世界が閃光を撒き散らしながら

弾け飛んだかのような衝撃であった。

 

という文章が印象的でした。

彼らが誰かを捕まえるでもなく、

限られた情報の中でいろんな意見を出し合っては議論していく形で、

ビールに始まりビールに終わる、後味のいい物語です。

 

 

 旅行とビール、ならばこちらも。

「恐怖の報酬」日記―酩酊混乱紀行 (講談社文庫 お 83-6)

列車といえばビールだ。これは世界共通の掟である。

というパワーワードも見られる、紀行エッセイ。

その時見ていることと過去に起こったこと、

目の前で起きていることと起こっていないことを

縫い合わせていくような著者の文章が好きなのです。

ロンドンの駅で飲むベルギー・ビール、

アイルランドのパブで飲むギネスなど、

各地のビールが旅路と、そこから生まれるイメージを彩ります。

 

また、文庫版には番外編として

ビールづくしの「身体に悪い大人の修学旅行」が載っていました。

キリンビール横浜工場、

夜行列車北斗星で行くサッポロビール園、

沖縄で飲むオリオンビール

 これがまた、楽しそうでおいしそうで、小説のような趣きもあり、

真似てみたくなりました。

「デザインあ」の本を読みました。~岡崎智弘「デザインあ 解散! の解」、「デザインあ 解散! の散」

 

www.miraikan.jst.go.jp

日本科学未来館で10月18日まで行われている

デザインあ」展を見に行きました。

 

ここではお弁当に入った梅干しの気持ちを知ることも、

デッサンをしてみることも、歯車となって回りながら通路を進むことも、

四方を囲むスクリーンに映し出される映像と音に

全身を包まれながら聞き入ることもできます。

見ることも、聞くことも、手を動かすこともできて、

たっぷり遊べる展示です。

www.1101.com

なので、今日はここに関する本を紹介します。

 デザインあ 解散!の解デザインあ 解散!の散

1つ1つがぼろぼろとはがれていく発砲スチロール、

つるつるになるマトリョーシカ

網目がずるりとはずれるメロン・・・

 「ものをバラバラにして、パーツをきれいに並べることでみつかる発見」

 は、意識さえしなかったことを見せてくれます。

玉ねぎとマトリョーシカは、同じ構造だということとか。

 

私が「デザインあ」について知った本でもあります。

 

www.youtube.com

 

デザインあ」の「あ」は、

驚きの「あっ」であり、はじまりの「あ」。

ということを、プロデューサーの方がインタビューで話していました。

(NHK Eテレ「デザインあ」が考える「デザイン」とは?)

 

楽しい驚きと、観察を形にすることで世界を見る目が変わります。

靴について書かれた本を読みました。~ジョン・ピーコック「Shoes」、えすとえむ「IPPO」、園田ゆり「あしあと探偵」

立って歩けるようにもなれば、

それは靴を履くこととほとんど同じ意味でありました。

 

これまで履いてきた何十足を思い出すような、

靴について書かれた本を紹介します。

 

Shoes シューズ

この本、ジョン・ピーコックの「Shoes」では、

3000年以上前のサンダルから現代のパンプスまで、

これまで世界中で履かれてきた靴をイラストで紹介しています。

 

つまさきをうんと幅広にするのが流行だったり、

足場の悪いところで履いたのか、底に下駄のような歯がついていたり、

足首のところでリボンを結ぶパンプスがあったりと、

時代背景も伺うことができました。

また、流行があるにしても

靴の基本的なデザインは古代とそれほど変わらないのだなあ、とも。

そのあたり、傘と似ています。

 

また、靴を作る漫画ならこちらを。

IPPO 1 (ヤングジャンプコミックス)

イタリアで靴の修行をしてきた一条歩が、

オーダーメイドの靴屋「IPPO」で、客の靴を作っていく

オムニバス形式の物語です。

 

プロポーズのために恋人に靴をプレゼントする男性、

自分のセンスに地震がない芸能人、

義足の女性・・・

それぞれの人生を進んでいく中での交点。

 

靴が悩みそのものを解決するわけではないのです。

ただ、今までとは違うものを手に入れる、

安いものではない買い物をすることで自分も変わる。

そういう変化が必要なときもある、ということだと思いました。

 

そして歩いていけば、おのずと足跡が残ります。

あしあと探偵(1) (アフタヌーンコミックス)

 

公式サイトによれば、

日本では、年間8万人もの人が消えている——。

「人探し専門」の看板を掲げる探偵事務所の新人・麦野と、

天才・寺崎のコンビが数々の失踪者を探し出す。

それぞれの理由を抱えた失踪者に辿り着く手がかりは、

残された痕跡と失踪者の心理だけ……

探偵vs.失踪者、知恵比べと根競べの社会派人間ドラマ!

引用元:あしあと探偵 / 園田ゆり - アフタヌーン公式サイト - モアイ

 

作者がサイトで描いている漫画もおもしろいです。

ちょっと星新一に似た雰囲気があります。

ますむらひろしの本を読みました。~「 ATAGOAL×HOKUSAI」、「ゴッホ型猫の目時計」、吉本ばなな「ばななブレイク」

現在、両国駅近くにあるすみだ北斎美術館では

8月26日(日)まで「ますむらひろし北斎展」が行われています。

 

この人の漫画を小学生の時知ってから、

もう10年以上読みつづけているので嬉しく、

私も会場を行ったり来たりしながらじっくりと楽しみました。

 なので、今回はますむらひろしの本を紹介します。

 

ますむらひろし北斎画集 ATAGOAL×HOKUSAI

  ますむらひろしは、米沢生まれの漫画家です。

いろんな物語を描いていますが、代表作として

猫と人間が共に暮らす、自然の曲線にあふれた世界

アタゴオル」を描いたシリーズがあります。

2006年には映画にもなっていました。

 

 よしもとばななが、「ばななブレイク」の中で

この世界は自分にとっての憧れの原点、と書いていました。

 私が生まれる前にいたかもしれないとすら思う

ふるさとのような場所、だと。 

ばななブレイク (幻冬舎文庫)

 

ますむらひろし北斎展」では、葛飾北斎浮世絵と

その「アタゴオル」シリーズに出てくる猫たちを合体させた

作品をたくさん展示していて、原画の魅力ってものを

存分に感じました。

自然の曲線と、それを活かすような直線、

印刷には出しきれなかった線や色あい。

 着物の柄や食べているダンゴなど、

細かいところも見ていて飽きません。

 

また、今更のように葛飾北斎のすごさを知りました。

何というか、みずみずしい。

すごいものは、何百年たっても古くならないのだと思いました。

 

ますむら・ひろしの「ゴッホ型猫の目時計」

 また、ますむらひろしは以前こういう本も描いていました。

手を動かして、形にしてこそわかることがあるのだなあと

私も何かを作りたくなりました。

 

夜ごと「ゴッホの手紙」を読み、何度も作品を眺めていると、

百年もたったのにゴッホの絵具たちが画布の上でまだうごめいている

のに気づく。あの絵具たちはいまだに乾いていないのだ。

なぜ乾かないのか。それはたぶん、世界がいつも乾いていることに

歯ぎしりしているからなんだ。

あったかもしれないものの本を読みました。~原研哉「デザインのデザイン」、穂村弘・パンタグラフ「パラレルワールド御土産帳」

漫画や小説では、

ときどきキャラクターや物語の初期設定が載っているものがあります。

 私は以前から、そういうものが好きでした。

 

たぶん、最初に意識したのは

和月伸宏の「るろうに剣心」だったと思います。

このキャラのモデルにしたのは誰か、デザインは何を参考にしたか、

最初はこういう設定だったけど、こんな風に変わっていった、

ということを説明してくれていたのですが、

どうしてそれがおもしろかったかといえば、

 「あったかもしれない」世界を

想像させてくれたからなのかもしれません。

 

本編とはまた別に、初期設定のままで作られたものがあったら

それはどういうものだったのか、と。

なので、今日はそんな「あったかもしれない」ものを

思わせる本を紹介します。

 

デザインのデザイン

デザインとはどういうことなのか、

デザインする、ということは何をすることなのかについて

様々な具体例から説明している本です。

 

この本の「あったかもしれないもの」は、愛知万博についてです。

作者はグラフィックデザイナーで、

多くの分野でのデザインを行っているのですが、

愛知万博の初期プロモーションにも関わっていたそうです。

広告として配られたグッズや、行われる予定だった会場についてなどが

ずいぶん詳しく書かれていて、あの「愛・地球博」とは違った万博が

あったかもしれないのだな、と思いました。

 

パラレルワールド御土産帳

雑誌「日経パソコン」でも、結構長く表紙に使われていたので、

見覚えがある人もいるのではないでしょうか。

アーティスト集団パンタグラフが作ったその作品は、

「4倍速鉛筆削り」や、

正方形のブロックで作られた桜「モザクラ」、

データの入ったボールを引き伸ばしてCDを作る「ディスク作成機」

等々、今のところ実際には存在しないもの。

でも、この世界がちょっと違った進化をしていたら、

あったかもしれないもの。

歌人穂村弘の紹介文も楽しく、

この世界とは違う進化を遂げた世界を垣間見た気分になりました。 

写実画・細密画について書かれた本を読みました。~月刊美術編集部「写実画のすごい世界」、宮部みゆき「ステップファザー・ステップ」

写真のようにリアルな作品を、絵画という形で見せる。

それが写実画です。

 

写実画のすごい世界

 

とはいえ、定義は様々あるようで

写実絵画を専門に収集している、ホキ美術館のHPによれば

 

「写実絵画とは物がそこに在る(存在する)ということを描くことを通して

しっかり確かめようとすること。物が存在するということのすべてを

二次元の世界に描き切ろうという、

一種無謀ともみえる絵画創造のあり方。

物がそこに在るということを見える通りに、触れる通りに、

聞こえる通りに、匂う通りに、味のする通りに描ききろうとする試み」

という言葉が紹介されていました。

 

本物と見紛うほどの絵を描ききる、というのは

何もかもを意識して描かなければいけない、ということだと思います。

たとえばカメラなら、何も考えずにシャッターを押しても

そこにあるものが全て写った写真になりますが、

絵の場合だと、モデルの着ている服の柄や床の木目、

ほつれた髪の一本一本、目の潤みや光の反射など、

すべてに作者の意志が働きます。

写真ではなく、絵であること。

抽象的ではなく、どこまでも具体的に描くこと。

写実画のよさはそこにあるのではないかと思いました。

 

また細かく描かれた絵、ということで、

この本を思い出しました。

ステップファザー・ステップ (講談社文庫)

主人公「俺」と、双子のきょうだい直と哲。ひょんなことから「俺」は、

二人の父親になりすまさなければいけなくなった・・・

という短篇連作集なのですが、

細密絵画が出てくるのはこの2話目、「トラベル・トラベラー」です。

 

舞台は群馬と栃木の県境にある暮志木町。

そこの美術館の所蔵品には、16世紀の画家、セバスチャンの作品

「陽光の下の狂気」がおいてあるのですが、

それが大変な細密画なのです。

もちろん、作品そのものが載っているわけではないので、

描写による想像しかできないのですけど。

 

素直に言おう。俺の見るかぎり、セバスチャンは偏執狂である。

いやあ、細かい細かい。本当に狂気の人間でなければ、

あんな平凡な風景をあそこまで密に描きこめるものじゃない。

説明用のパンフレットによると、彼は自分の眉毛を抜いてつくった

筆を使っていたそうだが、実際、かなり危険な人物だったのだろう

 

架空紙幣やジオラマ、ミニチュア、食品サンプル

どこまでも細密に、人の手によって作られたものには

時に震えるくらいの魅力が宿ります。

 

 自分で作ろうというところには至らないけれど

 せめて、たくさん知って、たくさん見ておきたいと思いました。