唐桃の読んだもの。

読んできた本や漫画を、徒然に紹介していきます。

ますむらひろしの本を読みました。~「 ATAGOAL×HOKUSAI」、「ゴッホ型猫の目時計」、吉本ばなな「ばななブレイク」

現在、両国駅近くにあるすみだ北斎美術館では

8月26日(日)まで「ますむらひろし北斎展」が行われています。

 

この人の漫画を小学生の時知ってから、

もう10年以上読みつづけているので嬉しく、

私も会場を行ったり来たりしながらじっくりと楽しみました。

 なので、今回はますむらひろしの本を紹介します。

 

ますむらひろし北斎画集 ATAGOAL×HOKUSAI

  ますむらひろしは、米沢生まれの漫画家です。

いろんな物語を描いていますが、代表作として

猫と人間が共に暮らす、自然の曲線にあふれた世界

アタゴオル」を描いたシリーズがあります。

2006年には映画にもなっていました。

 

 よしもとばななが、「ばななブレイク」の中で

この世界は自分にとっての憧れの原点、と書いていました。

 私が生まれる前にいたかもしれないとすら思う

ふるさとのような場所、だと。 

ばななブレイク (幻冬舎文庫)

 

ますむらひろし北斎展」では、葛飾北斎浮世絵と

その「アタゴオル」シリーズに出てくる猫たちを合体させた

作品をたくさん展示していて、原画の魅力ってものを

存分に感じました。

自然の曲線と、それを活かすような直線、

印刷には出しきれなかった線や色あい。

 着物の柄や食べているダンゴなど、

細かいところも見ていて飽きません。

 

また、今更のように葛飾北斎のすごさを知りました。

何というか、みずみずしい。

すごいものは、何百年たっても古くならないのだと思いました。

 

ますむら・ひろしの「ゴッホ型猫の目時計」

 また、ますむらひろしは以前こういう本も描いていました。

手を動かして、形にしてこそわかることがあるのだなあと

私も何かを作りたくなりました。

 

夜ごと「ゴッホの手紙」を読み、何度も作品を眺めていると、

百年もたったのにゴッホの絵具たちが画布の上でまだうごめいている

のに気づく。あの絵具たちはいまだに乾いていないのだ。

なぜ乾かないのか。それはたぶん、世界がいつも乾いていることに

歯ぎしりしているからなんだ。

あったかもしれないものの本を読みました。~原研哉「デザインのデザイン」、穂村弘・パンタグラフ「パラレルワールド御土産帳」

漫画や小説では、

ときどきキャラクターや物語の初期設定が載っているものがあります。

 私は以前から、そういうものが好きでした。

 

たぶん、最初に意識したのは

和月伸宏の「るろうに剣心」だったと思います。

このキャラのモデルにしたのは誰か、デザインは何を参考にしたか、

最初はこういう設定だったけど、こんな風に変わっていった、

ということを説明してくれていたのですが、

どうしてそれがおもしろかったかといえば、

 「あったかもしれない」世界を

想像させてくれたからなのかもしれません。

 

本編とはまた別に、初期設定のままで作られたものがあったら

それはどういうものだったのか、と。

なので、今日はそんな「あったかもしれない」ものを

思わせる本を紹介します。

 

デザインのデザイン

デザインとはどういうことなのか、

デザインする、ということは何をすることなのかについて

様々な具体例から説明している本です。

 

この本の「あったかもしれないもの」は、愛知万博についてです。

作者はグラフィックデザイナーで、

多くの分野でのデザインを行っているのですが、

愛知万博の初期プロモーションにも関わっていたそうです。

広告として配られたグッズや、行われる予定だった会場についてなどが

ずいぶん詳しく書かれていて、あの「愛・地球博」とは違った万博が

あったかもしれないのだな、と思いました。

 

パラレルワールド御土産帳

雑誌「日経パソコン」でも、結構長く表紙に使われていたので、

見覚えがある人もいるのではないでしょうか。

アーティスト集団パンタグラフが作ったその作品は、

「4倍速鉛筆削り」や、

正方形のブロックで作られた桜「モザクラ」、

データの入ったボールを引き伸ばしてCDを作る「ディスク作成機」

等々、今のところ実際には存在しないもの。

でも、この世界がちょっと違った進化をしていたら、

あったかもしれないもの。

歌人穂村弘の紹介文も楽しく、

この世界とは違う進化を遂げた世界を垣間見た気分になりました。 

写実画・細密画について書かれた本を読みました。~月刊美術編集部「写実画のすごい世界」、宮部みゆき「ステップファザー・ステップ」

写真のようにリアルな作品を、絵画という形で見せる。

それが写実画です。

 

写実画のすごい世界

 

とはいえ、定義は様々あるようで

写実絵画を専門に収集している、ホキ美術館のHPによれば

 

「写実絵画とは物がそこに在る(存在する)ということを描くことを通して

しっかり確かめようとすること。物が存在するということのすべてを

二次元の世界に描き切ろうという、

一種無謀ともみえる絵画創造のあり方。

物がそこに在るということを見える通りに、触れる通りに、

聞こえる通りに、匂う通りに、味のする通りに描ききろうとする試み」

という言葉が紹介されていました。

 

本物と見紛うほどの絵を描ききる、というのは

何もかもを意識して描かなければいけない、ということだと思います。

たとえばカメラなら、何も考えずにシャッターを押しても

そこにあるものが全て写った写真になりますが、

絵の場合だと、モデルの着ている服の柄や床の木目、

ほつれた髪の一本一本、目の潤みや光の反射など、

すべてに作者の意志が働きます。

写真ではなく、絵であること。

抽象的ではなく、どこまでも具体的に描くこと。

写実画のよさはそこにあるのではないかと思いました。

 

また細かく描かれた絵、ということで、

この本を思い出しました。

ステップファザー・ステップ (講談社文庫)

主人公「俺」と、双子のきょうだい直と哲。ひょんなことから「俺」は、

二人の父親になりすまさなければいけなくなった・・・

という短篇連作集なのですが、

細密絵画が出てくるのはこの2話目、「トラベル・トラベラー」です。

 

舞台は群馬と栃木の県境にある暮志木町。

そこの美術館の所蔵品には、16世紀の画家、セバスチャンの作品

「陽光の下の狂気」がおいてあるのですが、

それが大変な細密画なのです。

もちろん、作品そのものが載っているわけではないので、

描写による想像しかできないのですけど。

 

素直に言おう。俺の見るかぎり、セバスチャンは偏執狂である。

いやあ、細かい細かい。本当に狂気の人間でなければ、

あんな平凡な風景をあそこまで密に描きこめるものじゃない。

説明用のパンフレットによると、彼は自分の眉毛を抜いてつくった

筆を使っていたそうだが、実際、かなり危険な人物だったのだろう

 

架空紙幣やジオラマ、ミニチュア、食品サンプル

どこまでも細密に、人の手によって作られたものには

時に震えるくらいの魅力が宿ります。

 

 自分で作ろうというところには至らないけれど

 せめて、たくさん知って、たくさん見ておきたいと思いました。

インドについて書かれた本を読みました。~松岡宏大・野瀬奈津子「持ち帰りたいインド」、「タラブックス インドのちいさな出版社、まっすぐに本をつくる」、U-zhaan「ムンバイなう インドで僕はつぶやいた」

私がインドをはじめて意識したのは、椎名誠のエッセイででした。

たしか本文に、

車に乗ったときに窓から入る風が、

ドライヤーを吹きつけられているようだ

と書かれていて、それが印象に残っています。

子供心に、熱風を感じました。

 

 そんなインドで作られた、

家に持ち帰りたくなるような品々を教えてくれたのが、こちらです。

持ち帰りたいインド: KAILASとめぐる雑貨と暮らしの旅

 著者は、KAILASという手仕事のものやアンティーク製品を

販売するユニットだそうです。

 単にモノを見せるだけではなく、どういうところで売られているか、

どういう風に作られているか、ということもたくさんの写真と一緒に

紹介されているので、読み物としてもおもしろい。

 

また、インドで作られた本も紹介されていました。

南インドのチェンナイを拠点としている出版社、タラブックスの本です。

手すきの紙を使い、印刷・製版まで手作業で行われた絵本は、

紙のめくりごこちも、絵の色づかいも、一味違います。

そこについて詳しいのはこちらです。

タラブックス インドのちいさな出版社、まっすぐに本をつくる

タラブックスの設立者が、インタビューの中で言っていた

「一度”読む人”になれれば、

いろんなものに訪れる準備ができるんです」

というところが印象に残りました。

本は、自分がいるところとは違う場所とつながっている。

知らない扉を開けることができて、その中は広く、果てしない。

だから私は本が好きなんだよなあ、と思いました。

 

 また、インドでの暮らしについてはこちらがおもしろかったです。

ムンバイなう。 インドで僕はつぶやいた (スペースシャワーブックス) (SPACE SHOWER BOOKs)

著者は、インドの打楽器であるタブラ奏者で、

吉本ばななの本にも、ちょっと出てきました。

2009年にインドに行き、その翌年東京へ戻るまでの出来事を

Twitterでつづります。インドのすごさに、圧倒されました。

 

著者の出てくるテレビ番組を、YouTubeで見たのですが、

そこでは「しゃべるみたいに演奏する楽器」と言っていました。

高音を出す小さい木製の太鼓と、

低音を出す大きめの金属製の太鼓の2つから生まれる音は、

びっくりするくらい深みがありました。

いろんなところでライブを行っているようなので、

いずれ行こうと思います。

カレーについて書かれた本を読みました。~阿川佐和子など「アンソロジー カレーライス!」、カラスヤサトシ「カラスヤサトシの日本びっくりカレー」、清水義範「12皿の特別料理」

鉄腕DASHで、企画「俺たちのDASHカレー」がはじまったとき、

私もカレーを食べていました。

 

何をどう入れても大概の場合どうにかなるものが、カレー。

学校でも、家庭でも、カレーと無関係に過ごしてきた人は

少ないんじゃないかと思うくらいです。

なので、今日はカレーについて書かれた本を紹介します。

 

まずはこちら。

アンソロジー カレーライス!!

33人の作家が書いた、エッセイ・アンソロジーです。 

「インド人もびっくり」(尾辻克彦)、

「カレーライスとカルマ」(よしもとばなな)、

「カレーはぼくにとってアヘンである」(安西水丸)・・・など、

タイトルからひきつけるものが、たくさんありました。

本文の紙もカレーを思わせる色で、匂いが漂ってくるような本です。

 

カレー色、といえばこの本もそうです。

カラスヤサトシの日本びっくりカレー カラスヤサトシのびっくりカレー (ウィングス・コミックス)

こちらは、カレーが大好きな作者がいろんなカレーを食べて、

その感想を漫画にしたものです。

 

激辛カレー、薬膳カレー、ナイアガラカレー・・・といった、

いろんなカレーを出すお店に行くのはもちろん、

いろんなレトルトカレーを買い込んで味を比べたり、

専門店で香辛料について教わったりと、もりだくさん。

紹介されているところに、行ってみたくなりました。

 

12皿の特別料理 (角川文庫)

インドで入院した夫のためにおにぎりを作る。

結婚を考えている相手に、はじめて作るパエーリヤをふるまう。

作家と編集者が話す、子供のときに作ったドーナツ・・・

12品の料理を中心にした、違う味が楽しめる12話の小説です。

 

で、この中に、カレーについての一篇があるのです。

登場人物は、とあるアパートの同じ階に住む4家族。

たまたまある日の献立がみんなカレーになりました、ということで

それぞれの家で作るカレーを紹介していく、という話です。

 

いためる過程がなかったり、ナンを焼くところからはじまったり、

同じカレーとは思えないくらい作り方が違うのに、

出来上がったらすべてはカレー。

台所の数だけ、カレーがあるのかもしれません。

アメリカでの日常について書かれた本を読みました。~近藤聡乃「ニューヨークで考え中」、ユペチカ「サトコとナダ」

 起きてご飯を食べてお仕事してちょっと好きなことをして

その他もろもろもして眠る、日常。

もちろんそれは世界中で行われているものだけど、場所が違えば

またいろんなところが変わってくるのだと思います。

今回は、アメリカでの日常を描いている漫画を紹介します。

 

ニューヨークで考え中

 最近2巻が発売された、「ニューヨークで考え中」では、

 主に2015年から2017年にかけての日常を描いています。

 

著者は今年で、渡米して10年になるそうですが、

「水が合ってしまうと帰れなくなります」と書いていて、

帰ってきたと言える場所は自分で作れるということを思いました。

 

また、印象に残ったのは、ローズマリーについてのことです。

食べたら味を思い出すけど食べないと思い出せないもの、として

出てきたのですが、そういうものが私にもある気がしました。

なんだったかは、今思い出せないのですが。

 

六本木の森美術館では、9月17日まで

近藤聡乃のアニメーションが見られます。

大きな画面でうれしい!

 

またアメリカでの暮らし、と言えば

このマンガがすごい!」にもランクインされていたこちらを。

サトコとナダ 1 (星海社COMICS)

 サウジアラビア出身のナダと、日本出身のサトコ。

留学生の二人がアメリカでルームシェアをする4コマ漫画です。

共同生活の中でお互いを知り、成長していく姿に、

清々しさを感じました。

 

著者はインタビューで、

留学するってことは異国の文化を学ぶことだけど、

自分の国の文化を紹介することでもあるから

より深く学ばなければいけない、と書いていました。

 

漫画が楽しい、キャラがかわいいというのももちろんあるのですが、

それぞれの違いを受け入れるということの大切さも伝わりました。

違う場所で生まれ育ち、違う生き方をしてきた人と

近しく生きるというのは、ひとつの異世界交流ですね。 

セーラー服について書かれた本を読みました。~森伸之「私学制服手帖 エレガント篇」、酒井順子「着ればわかる!」

文京区にある「弥生美術館竹久夢二美術館」では、

6月24日(日)まで、「セーラー服と女学生」展が行われています。

セーラー服と女学生 (らんぷの本/マスコット)

 

中村佑介のポスターが印象的なこの展示では、

多くのイラストや雑誌、実物などの資料で、

セーラー服の魅力を教えてくれました。


それにちなんで、今日は制服について書かれた本を紹介します。

 まずは上記のイベントでもイラストが展示されていた、こちら。

私学制服手帖―エレガント篇 (進学レーダーBooks)

 

この本では、

東京都心部を中心にした私立学校の制服のイラストと一緒に、

それぞれの学校の特色、行事や校風なども紹介されています。

制服の着こなしかたや、プリクラ・携帯・ルーズソックスなど

90年代後半からの流行も描かれていて、

当時のことがわきあがってきたりしました。

 

「日本を代表する制服愛好家」ともいわれる森伸之は、

こちらの本でもイラストを描いています。

着ればわかる!

この本は、エッセイストの酒井順子が、

セーラー服をはじめとした各種制服を着てみて、

それについて考察していく、というもの。

 

着てみるのは学校の制服だけではなく

タカラジェンヌゴスロリ、ビーチバレー、巫女装束に養蜂家、等々・・・

特別な職業、特別な立場の人が身につけるものです。

 

「形から入る」ことでわかる機能性や所属感について、

著者の考察が時に生々しく、

また自分ではないものになりきる楽しさが、伝わってきました。