唐桃の読んだもの。

読んできた本や漫画を、徒然に紹介していきます。

猫と俳句の本を読みました。~堀本裕樹・ねこまき「ねこのほそみち 春夏秋冬にゃー」、柳沼吉幸「寺ねこ」、倉阪鬼一郎「猫俳句パラダイス」

俳句のよさは、写真のようなものだと思います。

きりとり方や撮るタイミング次第で、

見慣れた風景でも、初めて見るような新鮮なものとして写ります。

 

また、思いも寄らぬ言葉の組み合わせで、

イメージが広がることもあります。

 

そんな俳句の中でも、今回は猫を詠んだ俳句の本を紹介します。

 

ねこのほそみち ―春夏秋冬にゃー

ねこのほそみち ―春夏秋冬にゃー

  • 作者: 堀本裕樹,ねこまき(ミューズワーク)
  • 出版社/メーカー: さくら舎
  • 発売日: 2016/04/06
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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 猫を詠んだ俳句を、俳人の堀本裕樹が選んで解説し、

ねこまきが漫画を描く。

ときにほのぼの、ときに物悲しい、さまざまな姿の猫がみられます。

 

悲しみのかたちに猫を抱く夜長  (日下野由季)

などに、はっとするものを感じました。

 

寺ねこ

寺ねこ

 

鎌倉、川越、浅草、横浜・・・

淡海うたひの俳句とともに、あちこちのお寺にいる猫を撮っています。

 

雪女飼ひたる猫も雪の色

 という俳句と同じページにある、

遠くを見つめるような白猫の写真が印象に残りました。

 

猫俳句パラダイス (幻冬舎新書)

猫俳句パラダイス (幻冬舎新書)

 

 

手触りや膝にのる感触。

いるのかいないのかわからないところ、不思議なところ。

耳や肉球、目の光。

あらゆる場所に存在する猫の、

猫づくし俳句アンソロジーです。

 

アンソロジーのいいところは、思わぬ出会いがあるところですね。

黒猫の子のぞろぞろと月夜かな(飯田龍太)

卯波という大きな猫をさわりにゆく(永末恵子)

など、楽しい句がたくさんありました。

ことわざについての本を読みました。~エラ・フランシス・サンダース「誰も知らない世界のことわざ」、のり・たまみ「へんなことわざ」

誰も知らない世界のことわざ

誰も知らない世界のことわざ

 

「言葉は、私たちの頭の中に広がる広大な概念の世界です。

言語の数だけ、それぞれの世界観があり、歴史や文化に根ざす

表現があることを、この本を通して強く感じました」

と、書かれていたのが印象に残った本でした。

 

この本は、あちこちの国のことわざを、

イラストと一緒に書いたものです。

ドイツの「あそこでクマがおどっているよ」

(そこはにぎわっている魅力的な場所だ)や、

ラトビア「小さなアヒルを吹き出す」

(嘘をついている)など、広がるイメージがおもしろかったです。

 

日本からは「猫をかぶる」が紹介されていたのですが、

説明に「日本人は、猫となるとちょっと夢中になってしまうようです」

とありました。フランスの方に言われるほどでしたか。

 

日本のことわざと共通するものもあり、

話す人々が広がっていくにつれて、変化していく言葉や、

地球のあちこちを移動していく言葉。

それらの長い年月を思いました。

 

世界のことわざと言えば、こんな本も。

へんなことわざ 「へんな」シリーズ (角川文庫)

へんなことわざ 「へんな」シリーズ (角川文庫)

 

 夫・のりと妻・たまみの2人で書いた本。

世界のことわざと一緒に、豆知識や雑学もたくさん書かれています。

イギリスの「柔らかい舌が骨を砕く」

(悪口や皮肉、軽蔑などの言葉が人の心を激しく傷つける)

が、印象に残りました。

 

ところで、新しい言葉は日々生まれていますが

新しいことわざというのも生まれているのでしょうか。

石についての本を読みました。~山田英春「不思議で美しい石の図鑑」、宮田珠己「いい感じの石ころを拾いに」

めのう、水晶、柘榴石、蛍石、ぶどう石等々各種鉱石。

サメの歯、アンモナイトなどの化石に隕石。

 

それぞれ不思議な色や形で、

綺麗にカットされて磨かれたものとは違う、生々しい魅力があります。

自然が偶然に生み出したものが、こんなにおもしろくなるなんて。

秋葉原でもミネラルマルシェが開催された今週は、

鉱石についての本を紹介します。

 

不思議で美しい石の図鑑

不思議で美しい石の図鑑

 

著者は、書籍のデザインを専門に行うグラフィック・デザイナー。

めのうのコレクターとしても世界的に有名だそうです。

 

この本は、石の模様のバラエティを紹介している図鑑で、

自然から生まれたものの、あまりの美しさに息を飲みました。

この中に、石には「複雑で、有機的で、絵画的な魅力」 があると

書かれていたことが印象的で

「自然界には、直線は存在しない」という言葉を思い出しました。

 

 

いい感じの石ころを拾いに

いい感じの石ころを拾いに

 

 いい感じの石。

それは手ざわりも色合いも様々だけど、自分にはその感じがわかる。

見てさわって、これはいい、と思う。

 

これは、そんないい感じの石を拾いに旅をして、

石を愛する人たちに会いにいく本です。

この中にも、上記で紹介した山田英春さんが登場します。

 

他にもアフリカ専門の旅行会社「道祖神」の人にインタビューをしたり、

ナミビアには、きれいな石がたくさんあるそうです)

ミネラルフェアのことを紹介したりしていて、

 

 自然ってすごいなあ、石っておもしろいなあ・・・

と小学生のような感想を持ちました。

中国についての本を読みました。~赤瀬川原平「香港頭上観察」、小田空「中国の思う壺」、糸川燿史×中島らも「流星シャンハイ」」

 

香港頭上観察

香港頭上観察

 

 香港の町を歩いていくと、

こちらの感覚も何だかイリーガルな領域に踏み込んでいく。

もちろん人々が暮らしているんだからちゃんと法律はあるだろうが、

破られる法律と、守られる法律とが毎日勝負をしていて、

その勝負を挟んで暗黙の法律が作られていく。

 

 イギリスから香港が返還されたのは、1997年。

当時小学生だった私には、よくわからないことでしたが、

それでももりあがっているという空気が伝わってきました。

 この写真集は、まさにその年の上海を撮ったものです。

 

植物のように、空に向かって高く伸びている建物。

窓から伸びる物干しと、干される洗濯物。

まるで建物自体がエネルギーを放出しているようでした。

 

中国の思う壺〈上〉

中国の思う壺〈上〉

 

 こちらの著者が訪れたのは、まず1984年の中国。

 そこの人々にうちのめされ、振り回され、だけど惹きつけられ、

最初は旅行者として訪れた彼女は、語学留学生として学び、

下巻では教育大学で日本語教師として教えることになります。

 

読んで思ったのは、

あっちとこっちは違うルールでうごいているということです。

その、「あっち」「こっち」というのは国でもあり、

同じ国の中の地方でもあり、

同じ地方にある家でも、家に住む個々人でもあるわけですが。

良いとか悪いとかではなく、ただ違うのだと。

 

 

流星シャンハイ

流星シャンハイ

 

そしてこちらは、 1985年から1994年に撮られた上海の写真と、

短篇小説がいくつか。

小説では道端に放り出されたような余韻が残り、

写真は街のざわめきや熱、匂いが伝わってくるようでした。

ジャンプする本を読みました。~古川日出男「サマーバケーションEP」、林ナツミ「本日の浮遊」、青山裕企「ソラリーマン」

年を越すとき、ジャンプをすると決めていたときがありました。

重力に囚われるのは、それはもうしかたないこと。

だから飛び上がっているときに、数秒間だけでも

解放されているような気になったのかもしれません。

 

今日は、ジャンプが印象に残る本を紹介します。

サマーバケーションEP (角川文庫)

サマーバケーションEP (角川文庫)

 

 

季節は夏、舞台は東京。

井の頭公園でたまたま出会った彼らは、

海に向けて神田川沿いを歩きます。

出会いながら、別れながら、川の流れのように

 

そして、飛びます。

ジャンプした時は永遠になります。

最後のページを読んだときに、

飛び上がった瞬間が切り取られたように思ったのですが、

物理的にそんな浮遊した瞬間を切り取ったのが、こちら。

本日の浮遊 Today's Levitation

本日の浮遊 Today's Levitation

 

 

 重力を無視するというテーマで、彼女は跳びます。

歩道で、トンネルで、駅のホームで。

階段で、河原で、台湾で。

飛び上がってから飛び降りるまでの、浮遊した瞬間を狙って、

シャッターを切ります。

 

普通に立っているときと、ジャンプしている時の表情の違いに

驚いたのが、こちら。

ソラリーマン―働くって何なんだ?!

ソラリーマン―働くって何なんだ?!

 

 

各地のサラリーマンを正面から撮った写真と、

彼らが飛び上がった写真。

名刺を持つ手と、仕事について思うところを書かれた文。

 

スーツで仕事をすることが日常なら、

スーツでジャンプするのは非日常。

 日常と非日常の境目をたどるような本でした。

冷たいお菓子の本を読みました。~蒼井優「今日もかき氷」、おいしい文藝「ひんやりと、甘味」、米澤穂信「氷菓」

アイスクリームなら冬でも売っているし、おいしく食べられるけど

かき氷は夏限定、という気がします。

今年もかき氷のおいしくなる季節がやってきました。

 

今日も かき氷 【完全版】 (CASA BOOKS)

今日も かき氷 【完全版】 (CASA BOOKS)

 

蒼井優が、こんなにかき氷が好きだったとは知りませんでした。

おいしそうな笑顔も、山になったかき氷の写真も、とってもフォトジェニック。

この本では、日光にあるという、天然氷を作る氷室見学もしていました。

すき通った氷がきれいで、

これでつくったかき氷はどんなにおいしいんだろうと思いました。

紹介されているお店は、東京、名古屋、京都、沖縄、台湾やハワイまで。

しろくまが食べたくなりました。

 

 

幸田文から朝吹真理子獅子文六から重松清

100年近い時間をまたいでのエッセイ・アンソロジー

アイスクリーム、クリームソーダ、カルピス、ところてん、麦茶、水ようかん・・・

と、冷たく甘いお菓子についての文がつまっています。

「食べる」というものは、ただ食物を摂取するというだけではなく

思い出を味わうものでもあるのだと思いました。

 

印象に残ったのは、

馳星周のマンゴープリンを初めて食べたときの話や、

酒井順子のゼリーの食感について書いているものなど。

 いろんな人の文章に触れられるのが、アンソロジーのいいところですね。

 

 

それから、氷菓子といえば。

氷菓 (角川文庫)

氷菓 (角川文庫)

 

 これ、私が主人公と同じ、高校生くらいのときにはピンとこなかったんですけど、

それから5年くらいたって、おもしろいって思えるようになりました。

新刊「いまさら翼といわれても」も、早く読みたいです。

 

 

なろう小説を読みました。~犬塚惇平「異世界食堂」、支援BIS「辺境の老騎士」

小説家になろう」というサイトがあるのを、ご存知でしょうか。

日本最大級小説投稿サイトで、

作品の中には書籍やアニメになったものも結構あります。

そのうちの一つが、こちら。

 

先日4巻が発売されたところです。

 

1週間に1度、世界のあちこちに扉が現れて

そこは違う世界の食堂につながっている・・・という、

1話完結のオムニバス。

基本的には、食堂に訪れた客が食事をして、もといたところに帰る・・・

というものですが、バリエーションがこんなにあるものか、と驚きます。

おいしくご飯を食べている描写が、とてもいいです。

 

この物語のつくりは、

 「テルマエ・ロマエ」とちょっと似ていると思うのです。

 違う世界と、自分のいる世界を行ったり来たりして

影響されるというところが。

異世界食堂」では料理を、「テルマエ・ロマエ」では浴場を。

自分にとって大事なものを、よりよいものに変化させていきます。

 

 

で、おいしい料理つながりでもう一つ。

辺境の老騎士 1

辺境の老騎士 1

 

彼は知らない。

これがのちに、世界中で語り継がれる冒険の始まりとなることを。

 

老騎士バルド・ローエンの死ぬための道行きが、

死ぬまで生き抜くための旅へと変わっていく。

お家騒動、魔獣との戦い、ほのかな恋愛・・・

旅の中での物語は王道のおもしろさを感じさせてくれますし、

各地の美味が良いアクセントを加えてなります。

ウィジクのあぶりやき、ノゥレのプディング煮、ゆでたてのギー、etc。

その世界の食べ物のおいしさが感じられます。